「酒・小麦・自転車――留学後の中国体験――」戸田 有亮(山東師範大学)

私が初めて中国の大地に降り立ったのは2018年のことだった。そのころの中国はかなり魔境といった印象で、当たり前のようにボッタクられて、当たり前のようにお釣りがごまかされた。至る所で自動車の警音器は鳴り響き、道を横断するのに命がけ。その頃の中国に対する印象と、2024年度留学の印象は大きく異なるから、比較すると大変な文量になってしまう。それゆえ、留学直前に知り合いの中国人に聞いた山東省の印象や、自身で見聞きした情報と、留学に来て自ら体験したあとの異同を簡単に述べてみたい。

在日中国人に山東省および当地の人々の特徴を聞くと、大体3つの答えが返ってきた。身長が高い、公務員、酒飲み、である。第一の身長に関しては、大きい人が本当に多い。真偽は疑わしいが、山東出身の孔子も身長が2メートル以上あったと言われる。第二の公務員に関してだが、これはよくわからない。中国全土で公務員志願者数が第一位であるからそのような印象になったとも聞くが、あまり会話相手の職業や志望業界を考えて喋ることはないから気にしたことがない。そして最後の酒、これは山東人は酒飲みであるということだそうだが、その通りであった。そこらへんのおじさんと会話をして、しばらく時間が経つと「白酒って飲んだことあるか?」と聞かれることが多い。美味しいから毎日晩酌しているよ、などと返すと我が意を得たりとばかりにニッコニコしながら酒の話題を振ってくる。あるおじさんのお話では、一般的な山東人はコップに注いだ二両(100ml)の白酒(50度以上)を数十分とかけずに飲み干し、一日に一斤(500ml)を飲むという。アルコール量で換算すると日本酒一升に相当する量だ。それをほぼ毎日飲むというのだから、ほとんど狂気の領域である。私は弱いから一日に半斤(250ml)が限界ですよ、などと返すと「ほう、まあまあ飲めるじゃないか」と勝ち誇ったように語る。どうやら昭和体質とばかりに「酒がたくさん飲める=つよい」という価値観があるようだ。

東北や北京ほど寒くはないものの、山東も北方に属するゆえ、現在の気温は低い。朝晩は厳寒の北方を恨めしく思うものの、こと食に関しては北方に留学して良かったと思う。なぜなら私は米食よりも粉食を好むからだ。もちろん、南方でも粉食は可能であるが、その豊富さや味ではやはり北方に軍配が上がるだろう。白菜やキノコ、ウイキョウなど様々な種類の餡がある包子、真っ白なマントウ、黒糖を混ぜた甘いマントウ、とうもろこし粉を使った窝窝头など多種多様だ。加えて山東の特色料理である餃子も美味しい。何が他の地域と異なるかというと、何でも餡にしてしまうのだ。豚肉、牛肉をはじめ、カレー味の何かや、キノコ、何らかの海鮮、羊肉、魚肉、トマトと卵などなど。正直、食べている途中から自分が何味の水餃子を食べているか分からなくなるが、とにかく美味しい。

最後の自転車に関してだが、「中国人が全員自転車に乗っている」などという印象は2018年に打ち砕かれていた。しかし、済南ではそうでもないようである。かつ、より危険な状況になっている。どういうことかというと、済南では電動自転車に乗る人が多く、済南の道はやや狭いため、交通事故の危険性が高いということだ。他地域ではそもそも電動自転車の数が少ないか、道がもっと広いので済南よりはマシであるらしい。加えてこの電動自転車は日本語で表現される電動自転車とは大きく異なり、最近登場した電動キックボードに近い存在だ。中国では無免許で乗れるのでそれは危険な状況を招来するハズである。最高速度は25キロほどで、それが逆走してきたり左右から突っ込んでくるので、外出時は相当に気を使う。私は日本で趣味として二輪車に乗っている。あまりにも二輪の運転が恋しくなり、この間電動自転車をレンタルして走ってみたが、ヒヤリ・ハットの連続でもう乗りたくなくなってしまうほどのスリルを味わった。昔の映像でよく見る、自転車に乗った中国人の大群に電気のパワーが授けられて、人数と規模はそのままと考えると、その危険さが伺い知れるであろう。

 

近所のスーパーにあり思わず大量に買ってしまった紹興酒。北方人にはウケが悪いようで、あまり取り扱っている場所が少ない。これだけ買っても日本円では1000円以下であり、うわばみには優しい国だ。

 

食堂のまぜそば。大きめに切った鶏肉とコシのある麺、甘辛いタレが特徴で非常に美味だが、この店は人気店であり、いつも長蛇の列が出来ているのが口惜しい。15元。

 

食堂で買った粉食の一例。左側の黄色いものは奶黄包と呼ばれる甘いもので、右側の包子は人参の餡を包んだものだ。それに中央の豆乳2つを加えても13元ほどで非常に安価に粉食が楽しめる。

 

済南の名所、大明湖周辺での一枚。路上駐車されている電動自転車も、道行く電動自転車の数も非常に多いことがわかる。