「北京が私にくれたもの」金子 絹和子(青島大学)

今年の11月は私にとって一生忘られない1ヶ月だった。奇跡的にも新しい出会いと旧友との再会が一気に押し寄せ、何度も何度も暖かい気持ちにさせられたと同時に、「私が中国に来た意味」を強く感じることができた。今回のレポートではこの11月にあった出来事をいくつか記していきたい。

 

「费那奇动画周(Feinaki Beijing Animation Week)」でのボランティア

集合写真

 

「费那奇动画周」(以下:费那奇)とは世界中のインディーズアニメーションを上映するイベントで、北京で毎年1度開催されている。私は今年8月の帰国中に広島で行われた「ひろしまアニメーションシーズン」というイベントに足を運んだことがきっかけで费那奇を知ることとなった。友人が行くので旅行ついでに私も、と初めは軽い気持ちだったが、そこで中国人作家の作品も多く上映されており、中国のインディーズアニメーションの面白さを味わった。费那奇も一部展示やグッズ販売でこのイベントに参加していたので、速攻WeChatのアカウントをフォローし、後日ボランティアに申し込んだ。ボランティアの審査は簡単な自己紹介アンケートと5分ほどのオンライン面接で、無事に通過し、学校の先生にも許可をもらって私の北京への道は開かれた。事前にオンライン会議があり、初めて中国人の会議に参加しとても良い経験になった。また外国人ボランティアは私が初めてだったようで、現地で费那奇の発起人かつ総合プロデューサーの方とお話させていただいた際、私の名前を覚えてくださっていたことがとても嬉しかった。

 

ボランティアの持ち場はいくつかに分かれており、私はゲスト組で2名の日本人ゲストに同行する係となった。主な任務は空港での出迎えと中国語の通訳、そのほか滞在中のお手伝いだ。ゲストの方は英語が堪能で、また基本的に自由に会場に出入りしており、助けが必要な時だけ同行すれば良かったので、空いた時間は自分もアニメーションや展示ブースを見たり、友人と話したりと自由に行動することができた。ボランティアもゲスト同様、チケットなしで劇場を自由に出入りでき、また夜のパーティーにも参加可能だ。その他にも、実働時間に応じてポイントがもらえ、そのポイントを公式グッズと交換できたり、後日费那奇の参加証明書が発行される等、ボランティアへの還元もとても手厚く本当に素晴らしかった。ボランティアは学生中心なので終始文化祭のような雰囲気で、皆がそれぞれの楽しみ方でこのイベントを楽しんでいた。

 

 展示ブース

 

グッズ販売

 

费那奇に参加できたことだけでもう大満足だったが、ここでたくさんの新しい出会いがあった。会期中の1日は私がガイドになり、ゲストの方と北京観光を楽しむことになった。このゲストの方とは年齢が近く価値観も似ており、まるで数日前に知り合ったとは思えない空気感の中、私自身も心から楽しく過ごすことができた。観光中は度々奇跡のような事象が起き、「今日は一生忘れない、走馬灯に出てくるようなメモリアルな日でしたね」としみじみ言い合ったことはかけがえのない体験となった。今後、もう二度とこの日と同じ気持ちは味わえないだろうと思う。出会って数日の方とこんなに深く、濃い1日を送ることができるなんて想像もしなかったし、その上、その方が最後、「これからお互い世界にどこにいても、定期的に会ってうまいご飯を食べましょうね」という優しい言葉で包み込んでくださった。嬉しいという単純な言葉ではとても形容し難い、新鮮でふわっふわなスフレケーキのような1日だった。

 

私たちは満月を見た!

 

この方と出会えただけで、もう费那奇には感謝してもしきれない気持ちだったのだが、会期中、また奇跡のような新しい出会いがあった。初日のパーティーでなんとなく気まずく会場の片隅に佇んでいた時、ふと何気なく隣にいたボランティアの子に声をかけた。すると不思議と波長が合って、こんなひょんなきっかけですんなりと友達ができたのだ。この日は23時を回っていて、彼女が私をホテルまで送ってくれた。彼女とは持ち場が違ったので、毎日連絡を取り合い、休憩時間を合わせて一緒に現場でアニメーションを見たり、おしゃべりをしたり、たった数日間のイベントで、大袈裟ではなくまさに“親友”と呼べる存在ができた。私が今まで知り合った中国人の友達の多くは、日本語を勉強していたり、日本と接点がある人が多かったのだが、彼女は私が日本人だからではなく、私も彼女が中国人だからではなく、一緒にいて心置きない存在として、自然と引き寄せられて友達になった。费那奇の最終日、彼女は私の泊まっているホテルに一泊し、一緒に彼女の故郷である湖南省の料理を食べて、そして高鉄の駅でお見送りまでしてくれた。初日の開幕式の時はまだ知り合いもおらず1人で参加していたのに、最終日の閉幕式では隣に大切な友達がいて、その子が嬉しそうに目を輝かせながらスクリーンを眺めていて、その光景がキラキラもう眩しくて、「確実にこれは私の人生のハイライトだ…!」と今ここにある幸せを何度も確かめ、しっかりと全力で噛み締めた。青島へ帰る車内でも、この费那奇での日々を思い返してはじんわり嬉しくて何度も涙が溢れた。

 

友達と

一緒に食べた湖南料理

 

北京に着いたばかりの時、もちろん费那奇に参加すること自体が既にとても楽しみだったが、同時に不安や焦りもあった。ボランティアをするために北京まで来ることがどこかで少し大袈裟な気がしていたし、せっかく北京まで来て何も達成できなかったらどうしようとも思っていた。運よく友達ができて、思い出が作れたらいいなとは思っていたが、実際そんなに簡単ではないことは経験上知っていたし、期待は低く!と常に自分に言い続けてきた。だから、大切な友達ができたのは本当に夢のようだったし、自分にこんな幸せなサプライズが起こると思っていなかった。「もし8月に広島に行っていなかったら…」「もしボランティアに応募したのが今年ではなかったら…」「もし去年、北京に留学していなかったら…」「もし留学を半年延長してなかったら…」、そんなタラレバが私にこの费那奇での体験の凄みを一層強く感じさせてくれる。

 

 

北京の友人が会いにきた!

 

11月の奇跡はこれだけでは終わらなかった。北京でとても仲が良かったロシアの女の子が、私に会いに青島まで会いにきてくれたのだ!本当は私が夏にロシアに旅行に行く予定だったが、様々な状況を鑑み断念。今回、青島で悲願の再会を果たした。彼女は私にとって大好きな友人であり、そして初めて出会った時から中国語が既に仕上がっていたので、「彼女を超えたい!」と切磋琢磨して勉強しあった同志でもあった。そんな彼女が会いに来てくれたのだ、一大イベントにもほどがある!週末にかけての3日間という短い時間だったが、近況報告をしあったり、北京電影学院の頃を懐かしんだり、一緒に海辺を歩いて楽しい時間を過ごした。「私は青島にただ旅行に来たんじゃなくて、あなたに会いに来たの」と直接伝えてくれる彼女のまっすぐさと優しさと何よりも大好きだ。费那奇での新しい出会いがふわふわ新鮮なスフレケーキだとしたら、彼女との再会は中がぎゅうっと詰まったガトーショコラのよう。種類は違えど、どちらも美味しいことは間違いない。彼女といる時は、あと1ヶ月で終止符を打つ自分の留学生活を勝手に振り返ったりして、少し感慨深くもなった。

ロシア土産をもらった!

ツーショット

 

青島での3ヶ月を振り返って

 

青島大学での授業や学校生活は先月のレポートに記した通りで相変わらずだが、费那奇に参加したことで、外の世界に繰り出すことで自分次第で状況はいつでも良い方向に変えられると感じた。また毎日授業だけ受けていても自分の中国語の進歩は見えにくいので、やはり実際のコミュニケーションの中で使うことが大事だと改めて気付かされた。実際、ロシア人の彼女とおしゃべりをしている中で、青島に来てからまた中国語が少し伸びたと実感することもできた。あと1ヶ月、気を緩めず、最後まで自分らしく、自分だけの留学生活を全うしたい。