「いい加減は好い加減――留学の困難を乗り越えるコツ」戸田有亮(山東師範大学)

留学に来てから様々な困難に直面した。書類不備で入国できないと言われたり、タクシーの乗り方が分からなかったり、鉄道の切符の買い方が分からなかったりなどである。

大学に到着してからも、全く通知されない時間割や、注文方法が不明な学生食堂、喫煙所はどこか、などの問題に悩まされた。

ではこういった問題をどう乗り越えていけばよいだろうか。

 

様々な問題や日常の出来事を「べき論」で判断するべきではないとは修士課程における我が師の言葉である。上記のような問題も、「べき論」を以て対応するべきではないだろう。

つまり、「まずは一人で解決しようと試みるべきだ」とか「人に解決法を聞くなら、どういう風な中国語を喋るべきだろうか」、「ここではこう振る舞うのが正解だろう」などと思い込まないことだ。

我々は言語を学びに中国へ来ている外国人であり、当たり前だが中国の文化やしきたりを知悉しているわけではない。

ならば、この「べき論」はなんの意味があるだろう。

それは日本で身につけた暗黙の了解や常識を基に形成されたものではないだろうか。それゆえ中国人から一切評価されない、ただ自分を苦しめるだけのこだわり、礼儀になっている可能性がある。

したがって、今まで積み上げてきた「べき論」を捨て去り、「外国人であるから、中国語を理解できないのは当たり前、中国の習慣がわからないのは当たり前」という考えで最初は生活することをおすすめしたい。

簡単に言えば、自分の価値観も相手の価値観だと思われるものも、どちらも絶対化せず、いい加減で生きてみるということだ。

 

私の困難について言えば、入国時の書類不備は「持っていないからしょうがないよ、あはは」と適当に答えていたら、簡単な書類の記入だけで入国できた。

タクシーの乗り方が分からなかったが、とりあえず手を挙げて乗ってみた。

鉄道の切符に関してはどの窓口で買うのか分からなかったので、とりあえず行列ができているところに並んでみたら購入できた。

授業の時間割は通知されないならばまだ授業はないのだろうと気にしなかった。

学生食堂での食事に関しては、偶然見かけた留学生に勝手についていき、見様見真似で注文した。

喫煙するおじさんたちを観察すると、屋外なら好きな時にどこでも吸って良いらしい。大学の屋内でもトイレならば喫煙可能だった。いまは毎朝、歩行喫煙しながら教室へ向かっている。

事程左様に、非常にいい加減かつ雑に生きているが今のところ困ったことにはなっておらず、自分の目的や意図は達成できているのだ。

 

共に生活している留学生の一部には、自分の中の「べき論」を捨てきれず苦しんでいる者もいる。

彼らからは「自分の国ではこうなのに中国は違う、信じられない」や「こういう情報はもっと早く学生に通知するべきだ。遅すぎる」などの意見も聞かれる。

そうした困難や文化の差異に直面したとき、できるのは受け入れるか、理解し尊重するかの二択であると思う。彼らのように怒ったところで現実が変わるわけではない。

いい加減さはそうした文化的差異に対面する際の一助となろう。自分にも他人にも厳格ではなく、肩ひじをはらない好い加減のいい加減さが、中国での暮らしに役立つはずだ。

 

インターネット通販「淘宝」で一番安いベッドシーツ、まくら・掛ふとんカバーを注文したらとても可愛くなってしまった様子。
ルームメイトから嘲笑されるも、「寝られるから問題なし」と一緒になって笑っている

いつも授業を受けている教室棟のトイレにある灰皿。日本の大学では校地内全面禁煙や屋内全面禁煙が多いが、中国はまだ喫煙者に優しい。

「菇娘果」という果物。ホオズキの近縁と思われる果物で、適当に買ってみたはいいものの口に合わず。

大学付近にある千佛山興国禅寺の扁額。「外に向かって求むるなかれ」の言葉は、自己の「べき論」に応じた言動を他人に求めることも、
他者の価値観を絶対化することも戒めつついい加減に生きる自分と符合する部分があるように感じられた。

 

タイ料理を囲みながらタイ出身の留学生と語らう。食事の際の礼儀はアジア各国で異なるが、それぞれの文化を尊重しつつ差異を紹介しあえば、学びつつ会話も楽しむことができる。