中国のことわざの一つに「会哭的孩子有奶吃」がある。「泣く子は乳をもらえる」というような意味だ。山東省での暮らしももうすぐ半年となるが、中国人と交流し、生き抜いていくためには泣くことを覚えなければいけないと身にしみて実感している。
文化的な親近感を覚えがちとはいえ、中国は畢竟外国である。日本とはもちろん文化も異なる。その中でも大きく異なるのは自己主張をしなければいけないという点だろう。日本ではいわゆる察する文化とか空気を読むとか言われる意識が存在しているため、自分の主張や意見を力強く述べることは忌避される傾向にあるだろう。翻って中国では、誰も自身のことを慮ってくれないから、はっきりと意見を述べないとどんどん流されて自身の目標が達成できない。だからこそ大いに泣き、文句を言いまくることが必要なのである。これは中国人との交流だけではなく、寮に住んでいる各国の留学生との交流においても必要となる態度であろう。
私は未だに泣き方を習得していない。何か困ったことがあれば全て自分で調べて解決することを最善としている。一方、私のルームメイトはどんなに小さなことでも大騒ぎして人に助けを求める。彼の問題は往々にして、中国語が読めればすぐにでも解決できるような問題なのだが、彼は自分で調べるより先に人に聞いてみる。最初、中国語力は私のほうが高かったから、きっと彼よりも多く中国人と交流ができると思っていたが、結果として彼のほうが私よりもずっと多く中国人と交流している。その原因はやはり、何か困ったことがあれば人に頼るかどうかという思考の違いによるものだと思っている。人に助けを求め、そこから友人としての交流が始まることもあるのだから。ちなみに、我がルームメイトはあれだけ泣くことができるのに、価格交渉の際は言い値で買ってしまう。この分野では私のほうがはるかに中国人との交流が出来ている。「ここに傷があるじゃん!」とか「2人分買うから安くして」など様々な理由を探し出し、一円でも安く買おうとする。そこから自然と交流に発展することもあるので、分野を問わずにとりあえず騒いでみることはやはり重要なのではないか。
値段以外であまり騒がない私の交友範囲はあまり広くないが、何人かの顔見知りがいる。ところがどういうわけか一癖ある方ばかり。類は友を呼ぶということか。
一人はやたらと政治の話をしたがる大学生だ。政治の話が好きすぎて警察から2回ほど警告を受けたことがあると自慢気に話している彼からはどうしても距離を置きたくなってしまうが、なんだかんだと私も政治の話題が好きだからそれなりに付き合っている。
二人目は無料で日本語を教えてくれる日本人を探していた元教師である。もともと私とは関係なかったが、知り合いの日本人から紹介され、いつの間にか私が日本語を教えることになっていた。日本語を教えるはずなのにいつも、儒教思想を忘れてしまった若者の話題とか、警備員や配達員の給料がどれくらいかというような話しかしていない。それも中国語で。果たして彼の日本語学習の為になっているかわからないが、私は楽しい。
三人目は近所のコンビニのおじさんである。店の中でやたらタバコを吸っていたと思ったら清掃員の制服を着て歩いていたりと身分がよくわからない方だ。基本的に無愛想で、客に応対することもほとんどないのだが、私だけには「もうすぐ新年だからお前の吸ってるタバコが一時生産停止するぞ!」などと話しかけてくれる。もともと強固な反日思想を持っていて、私が日本人と分かるや否や日本批判をしてきたのだが、一緒になってアメリカ帝国主義や自民党の批判を繰り広げるうちに謎の連帯感が生まれていた。方言がキツすぎてほとんど何言っているか分からないので、心で繋がっているタイプのおじさん。
こういう味のある方々に囲まれての生活は疲れるけれども楽しく、私は満足している。それでも、もっとクセの少ない普通の中国人と交流したいとなると、もっと泣くことが必要だろう。私達は留学生であるが、同じアジア人故に中国人とは見た目の違いがほとんどないので、ヨーロッパなどから来た留学生の方がウケが良い。そういった不利を乗り越えて交流するためにはやはりこちらから行動をしなければいけない。困った事があればすぐに彼らを頼り、主導的に遊びに誘わなければなかなか友人と言える関係まで発展させることは難しいだろう。
![]() どこへ遊びに行くにしても土地が広大な中国では移動時間が長い。電動自転車があると外出する際に非常に便利である。とはいえ、冬に乗るのは本当に寒い。 |
![]() 町中で何かしらのイベントがあると、人出は日本の比ではないくらい多い。これだけ人が多いのだから意見を主張しないと埋もれてしまうのも当然である。 |
![]() 農村で青果を買おうとして価格交渉をしている様子。思いつく限りの理由で武装して値段を下げようとするが、相場がわからないうえ、海千山千のオバちゃんたちに打ち勝つことが出来ず悔しい思いをした。 |