「潜入レポート!北京電影学院の留学生活①」金子 絹和子(北京電影学院)

毎月、自分以外の公費留学生のレポートを楽しみに拝見している。同じ中国に留学しているとはいえ、大学や地域が違えば生活様式も全く異なるのが面白い。北京電影学院(以下、北影)での留学生活は、その中でも特殊な方だろう。

授業が始まって2週間後にタイ人留学生が辞め、1ヶ月後には日本人留学生が帰国した。辞めた理由はそれぞれだが、北影の留学生の多くが留学生活にギャップを感じているのは事実だ。中国留学についての情報が少ないことは言うまでもないが、北影の情報はその中でも特に少なく、実際に行くまで実態が分からないという賭けの中で「いざ来てみたら何かが違う…」と目標を見失う人も多い。そこで今回は、北影での留学生活を私目線で余す所なくお伝えできたらと思う。

正門

北影の留学生

北影の汉语班(中国語进修生)は別名“预科班”と呼ばれている。その名の通り、1年後に北影の本科生(大学生)、もしくは研究生(大学院生)の受験を見据えた準備クラスだ。そのため誤解を恐れずに言えば、ほとんどの留学生は受験のために渋々中国語を勉強しているような状態で、中国語への勉強意欲は低いと感じる(毎年そうとは限らないが)。ただ北影の高考は11月から始まるため、実際は中国に来て2ヶ月で合格することは難しく、预科班に2〜3年在籍する学生も珍しくないらしい。また北影は中国にある大学の中でもトップクラスの難関校で、今年の監督コースに至っては5000名中、合格者はたった15名だったそうだ。このような現実を突きつけられ、既に北影の受験を諦めている留学生も多い。

留学生の中には、自分で映画を撮っている人、プロデューサーとしての仕事経験がある人、女優を目指す人など様々な人がいる。国籍としては日本人4人、ロシア人3人、韓国人2人、その他オーストラリアやパナマ、レバノンなどの留学生がいる。私以外の全員が英語が話せるので、留学生同士で話す際はほとんど英語を使う。最初は「私も英語が話せたら…」と思っていたが、今は開き直って中国語の勉強に専念している。ただその中でも、幸いにも中国語で話しかけてくれる留学生の友達が2人できた。日本人留学生とも仲良くなり、中国語に疲れた時は遊びに行くことも多い。

クラス分け

教科書と学生カード

クラスは初級・中級・高級の3つに分かれている。全体で15人ほどで、他の大学に比べたら圧倒的に少ないだろう。クラス分けはHSKの保有級によって決まるため、学校に到着してすぐに自分のクラスを知らされる。4級が中級、5級以上は高級となる。初級は一から中国語を学ぶクラスで、教室棟が違うためほとんど顔を合わせたことはない。

私は現在、高級に所属している。生徒数はなんと2人、おそらく北京の大学で一番少ないだろう。元々は7人のはずだったが、授業初日からなぜか3人しか来ておらず、その内の1人は既に中国語がネイティブのため途中で抜けてしまった(なぜ汉语班に来たのか…)。もう1人は韓国人の留学生で、今学期で帰国する予定なので来学期がどうなるのか少し不安である。

北影の汉语班の欠点としては、学生数が少ないため中国語のレベルに相当なばらつきが見られる。高級は2人だけなので気にならないが、中級には全く中国語を話すことが出来ない学生から、既に流暢に話すことができる学生まで本当に差が大きい。そのため、留学生同士が共通言語である英語を用いてコミュニケーションを取らざるを得ないのも無理がないとは思う。もし北影の汉语班に留学を考えている日本人の方がいれば、高級の条件であるHSK5級以上を保有して行くことをお勧めしたい。

授業内容

1学期のスケジュール

授業割

午前中は中国語の授業が2コマある。高級の授業は「総合」「阅读」「写作」の3つで構成されている。どの授業も北京語言大学のテキストを使う。先生はそれぞれ近くの大学から派遣されており、高級には北京語言大学や北京科技大学の先生がいる。そのため、授業の質は他の大学と遜色はないと感じる。特に高級は生徒が2人だけなので先生との距離も近く、発言の機会も多くて満足している。

「総合」の授業では文字通り、読解力、作文力、スピーキング力を総合的に学ぶことができる。「阅读」では授業中に様々なテーマの文章を読み読解力を重点的に鍛えるほか、中国独自の文化や考え方、最近のネット用語やトレンドなども織り交ぜて授業をしてくれるので、中国への理解が深まるだけでなく、飽きずに授業を受けられる。「写作」では先生が解説してくれる中国語の作文のコツや作法をもとに、実際に作文をすることが多い。また週に数回、300〜600字の作文の宿題がある。沢山文章を書く機会があるおかげで、最初は3時間ほどかけて書いていた600字の作文も、最近は半分の時間で書けるようになってきた。

「综合」の授業風景

午後は映画の授業がある。が、この映画の授業が私の想像とはかなりかけ離れたものだった。月曜の「电影分析课」は様々な国の映画を鑑賞し、映画の見方を伝授してくれるのでそれなりに有意義な授業だと思う。問題は火〜木曜、毎回4時間ある「电影汉语课」だ。この授業では映画の専門用語を覚えたり、映画の誕生した年や各国の代表作などの知識を詰め込む。先で述べたように、北影の汉语班は预科班という位置付けのため、1年後の受験で必要な映画の基礎知識を学ぶ授業になっている。私は当初、中国映画の歴史やトレンドを学べる授業があると勝手に楽しみにしていたため、これにはかなり面を食らってしまった。せめて中国語のリスニング練習になれば良いと思ったが、午後の授業は中級と高級の生徒が一緒に受けるため中国語のレベルに相当な差があり、先生も仕方なくほとんど英語で授業をしている状況だ。先生に聞いたところ、1年後に北影を受験しない生徒は必修ではないとのことだったので、私はもう受講していない。その分午後の時間は自由に使えるので、中国語の勉強や映画を見たりして過ごしている。授業がない時間の過ごし方については、来月のレポートで報告したい。

2ヶ月を振り返って

長々と北影での留学生活について書いてきたが、個人的には今の生活に割と満足している。留学生の人数が少ないので人間関係で悩む必要があまり無く、また中国語学習において授業での発言機会が多いことは素晴らしい環境だと思う。そして学校に映画館があるため、中国のクラシック映画や日本では上映していない外国の作品を見ることができる点が個人的には最高だ。逆に少し残念に感じることは、在校生のほとんどが自身の映画制作で忙しくしており、サークルなどの学内の活動が全く無いことだ。学内で留学生以外の友達を作るのは難しそうなので、今後はより積極的に行動して学外での出会いを増やしていきたいと思っている。