渡航してからの日々は、毎日がハプニングの連続である。実際に困ってはいるのだけど、それはいつもどこかシュールな面白さと表裏一体だったりする。
困ったこと――電子決済、処理水問題、寮の部屋が壊れがち
今の中国社会においては、支付宝あるいはWechat payがないと街での移動や買い物が不便というのはよく知られていると思う。それは大学の中でも同じだった。華東理工大は、学費や寮費も、口座引き落としやクレカ払いではなく電子決済らしい。また、食堂では学生証をレジにかざして決済するのだが、チャージするにも電子決済の設定が必要だ。しかも日本のクレカを登録していても、中国の口座がないと支払えないことがあり、無事に決済できるかしばらくは冷や冷やした。
私が上海に来たばかりのころは、日本のクレカ(Mastercard)と紐づけた支付宝で、空港から大学までのタクシーの支払いをすることができた。その設定のまま、地下鉄の乗り降りと、コンビニや学内の商店での買い物もできたので、少し生活を落ち着けてから、中国の携帯番号と、銀行口座を作って紐づけた。口座開設までできたなら一安心、もうこっちのものである。しかし私は中国政府奨学金を受け取れる銀行口座が大学によって違うのを知らなかったために、2つの銀行口座を作ることになってしまった。先に大学に確認することをおすすめする。
処理水のことは、恐れていたほど追及はされないものの、話題にはのぼる。相手に不穏な雰囲気を感じたり、そもそも話す気分でないときはスルーでよいと思う。そのほかの困りごとは、寮の壁が壊れるとか、インターネットが繋がらないとか、天井から水が落ちてくるといったマイナートラブルである。しかしそれらは、毎回ちょっとワイルドなおっちゃんがやってきて解決してくれる。最初はそういった修理を頼んでも忘れ去られていることが多かったのに、寮のフロントの人たちに顔を覚えられてからはすぐに対応してもらえるようになった。最初からやってくれと思いつつも、どこか愛おしい。
面白かったこと――ワールドワイドな出会い、紫菜汤
寮に住んでいると、中国人学生よりも先に留学生と出会うことになるのではないかと思う。華東理工大の留学生は主に本科生や修士の学生で、私のように1年で帰る人は珍しい。みんな中国語、英語、他の言語も操れるマルチリンガルなのでとても尊敬している。
先日、私が風邪をひいたとき、中国にルーツを持つオーストラリア人の子が「紫菜汤」という海苔のスープを作って持ってきてくれた。
排骨というスペアリブに卵、ほうれん草が入ってボリュームたっぷり、海苔がふんわりと香る。私はこのスープの名前を、参照している先行研究の論文の中で見たことがあった。中国の伝統的な産後養生の慣習において、出産を終えたお母さんが食べさせてもらったというメニューのひとつが、紫菜汤だった。文字のイメージからもなんとなくおいしそうなことは分かるのだが、出産で身体に強烈なダメージを負った女性に出す料理としての位置づけがよく分かっていなかった。聞いてみるとこのスープは仕込みに時間がかかるらしく、午後の3時から夜までキッチンにいたというのだから驚いた。レストランでもない限り、こんな大変なものを毎日作ってはいられない。紫菜汤を料理する側の、ここぞというときの熱量、覚悟を知った思いだった。
研究と関連づけて興奮してしまったが、彼女が風邪をひいた日本人に栄養たっぷりの紫菜汤を作って食べさせてやろうと考えてくれたのが本当にありがたかった。現金なことに、スープを飲んだあと私の体調はみるみる回復した。これから中秋節、そして国慶節の長い休みが始まる。また元気に頑張りたい。