「紫禁城の思い出」木村水映(北京外国語大学)

 

私にとって北京の一番の魅力は、中国4000年の歴史を感じられる数多くの遺産に恵まれていることだ。北京は実に7つの世界文化遺産を有している。私もこの留学期間、万里の長城や頤和園、天壇などに足を運んできたが、その中でも特に感動したのは故宮であった。

 

今月7日から9日に実施された「高考」。受験生を送迎するバスがあちらこちらに出現。

 

故宮は他の観光名所と比較しても特に人気の高いスポットで、チケット購入が至難の業であることは以前より耳にしていた。実際に私も、チケット販売開始日の24時ちょうどに購入を試みたにも関わらず、既に完売し購入に漕ぎ着けないという事態を経験したことがある。土日のチケットは特に人気が高いのかもしれない。北京に向かう予定のある方で、是非故宮を訪れたいという方には、早めの予約を強くお勧めする。

 

大学付近の洋菓子店では「高考成功(受験が成功しますように)」の文字が刻まれたチョコケーキも販売。

 

熾烈なチケット争奪戦を勝ち抜き、やっとの思いで辿り着いた故宮を初めて目にした時の感動は今でも忘れられない。午門をくぐり、太和門を抜けた先に見えた景色はまさに「壮観」の一言。広大な中華帝国の中心となったのも納得の威厳に満ちた空間に、「まさにこの地で歴史が動いたのか」と我を忘れて見入ってしまった。白く長い階段の向こうから、今にも皇帝と皇后が降りてきそうな、「陛下(bìxià)」「娘娘(niángniang)」と囁く侍者の声が聞こえてくるかのような光景を目の前にし、明・清代へタイムスリップしたかのような感覚に包まれた。

 

10日には端午の節句にちなみ、食堂にて粽(ちまき)を受け取ることができた。

 

漢服を着た状態で見学をしたことで、中国人・外国人問わず多くの観光客の方に声をかけて頂いたのも印象的な体験だった。「記念に写真を撮ってくれないか…!!」と情熱的に声をかけて下さるスペイン人の集団に、内心「私も外国人なのだけれど」と呟きながら応じたり、「お姉さん、私も一緒に写真をお願いします!」とキラキラした瞳で近づいて来てくれた少女に、「人生で初めて故宮に来た、一般観光客と撮ることになるけれど大丈夫?」とひとり心配しながら一緒に手でハートを作ったりしたのはとても面白かった。

 

気温36度という暑さにも関わらず、漢服を着た観光客は少なくなく、見かける度に「暑い中ご苦労様です」とつい勝手に親近感を覚えてしまうほど。ドラマ『宮廷の諍い女』が大好きな私は、太和殿の前を歩く漢服美女たちを目にした瞬間、興奮のあまり、思わず「『宮廷の諍い女』みたい!」と叫んでしまった。間髪を容れず友人に、「逆だよ、『宮廷の諍い女』が故宮に寄せているんだよ」と冷静に指摘され、笑い合ったのも良い思い出だ。遠くから眺めるだけでなく、実際に直接「お召しになっている漢服、とても綺麗ですね」と積極的に声をかけていった結果、3人で始まった観光が、帰り際には6人の立派な漢服集団へと化していたのも非常に愉快で、忘れられない1日となった。

 

立派な漢服集団へと急成長