以前中国でお仕事をされている日本人の方からこのような話を聞いたことがありました。何か物事に取り組むとき、日本人は比較的スピードよりクオリティーを大切にし、中国人は質より早さを大事にする傾向がある。私自身も以前から日本人は良くも悪くも慎重で、中国人はおおざっぱというイメージを持っていました。しかし留学前は中国人留学生とのかかわりの中で特にこのことについて身をもって感じたことはなく、留学に来て初めて“チャイナスピード”を実感しました。(今思えば中国人の学生も今私がそうしているように、留学先の文化、社会に溶け込もうと努めていたのかもしれません。)
特に留学初期は、中国の授業を進めるスピードの早さに衝撃を受けました。日中どちらの大学でも中国語の授業で習ったばかりの単語や文法構造を使い自分で文章を作るという練習方法があります。日本では3つの文章を作るのに、10分ほど考える時間があり、その後ホワイトボードに書き出すか、口頭で読み上げ先生に添削してもらいます。一方中国では黒板に書き出すといった手間と時間がかかる方法はまずしません。そしてほとんどの場合10秒以内に考えてその場で口に出して正しく使えているかチェックしてもらいます。もし10秒以内にいい文章が思いつかなかったら先生は待ってくれず、すぐに次の内容に進んでしまいます。最初は頭の回転が追い付かず、心が折れそうになりました。しかし今ではすっかりこのスピード感に慣れて、先生の問いかけに瞬時に反応できるようになりました。そして効率よく一回の授業で多くのことを学べる中国の授業スタイルを今はとても気に入っています。
先日京劇の脸谱色塗り体験に参加してきたのですが、その際にも日中の早さと質に対する価値観の違いを実感しました。まずイベントの初めに京劇の役柄とメイクの種類、特徴などについて解説があり、そのあと自分で好きな役柄、色を選び、オリジナル脸谱を作ります。その際、中国人の学生は1時間もかからずに脸谱を完成させていました。よく見ると細かい部分がはみ出ていたり、色ムラになっていたりするのですがきちんと完成されています。一方私を含めた数人の日本人は細部まで慎重に丁寧に描いていました。しかしそのせいで時間内に描き終えることができず、中途半端な仕上がりになってしまいました。
一概に日中どちらのスタイルが優れているとは言いきれません。しかしこのように留学生活の中で自分と異なるスタイルと出会い、その良さを体感できたという意味で非常に価値のある経験ができたと思います。私の好きな中国語に最高のものだけを残し、悪いものを捨て去るという意味の取其精华,去其糟粕という言葉があります。この言葉のように、これからも日本人としての強みを活かしつつ中国で出会った新しい価値観を吸収して、更に自分を高めていきたいです。