「前期を終えて② 映画のこと」金子 絹和子(北京電影学院)

私の留学の目的は、語学力向上とともに中国の映画市場や動向を理解することである。そこで今回は前期レポートに続いて「映画」の切り口から前期の留学生活を振り返りたいと思う。

映画のこと

リアルタイムで公開される中国映画については、内容を問わず出来るだけ見に行くようにしている。幸いチケットが安いので、喫茶店にコーヒーを飲みに行くような感覚で気軽に見ることができて嬉しい。一方で、知り合いの中国人は日本や韓国、ハリウッドの作品をネット配信で好んで見ている。その追っかけ能力と熱量が凄まじく、日本では視聴率1%を切る深夜ドラマや最近始まったバラエティ番組までほとんど網羅している。その原動力はどこから来るのか、私がこの半年で感じた中国の映画及び映像作品の傾向とともに考察してみる。

まず一つ目に挙げられるのは、単純に質の問題だ。検閲によって作り手の意図に反した内容になってしまうことがあるのは言うまでもない。また中国では外国映画の上映本数が極端に少なく、代わりに新作・準新作合わせて常時50本近くの国産映画が上映されている。作品の移り変わりも激しく、これだけ大量生産されてしまうと作品の質はあまり期待出来ない。映画産業に至っても「質より量」という考えが強いのかもしれない。また単館系の映画館がないのでアート寄りの作品が極端に少なく、あくまで娯楽としての賑やかな作品がほとんどなのも質の問題に直結しているのかもしれない。

二つ目に考えられることとして、作品が独自性に欠けることだ。中国映画を見た後まず頭をよぎるのが「あの海外作品に似ていたな…」という感想である。観客側からすれば、見慣れたものよりも目新しいものを探す方が断然楽しいに決まっている。そういった理由で海外作品を好んで見る人も多いのではないか。また中国映画も正直似たり寄ったりで、ここ数年はタイムリープものが流行っている。また何故かどの作品もプロットが複雑で難解な傾向がある。例えば年末に公開された「一闪一闪亮星星」という映画は、主人公の男がタイムリープして高校生に戻り、当時好きだった女が事故に巻き込まれないように過去を変える話だ。しかしこの2人は実は元々違う世界線で暮らしており、女の方の世界では男が事故に巻き込まれ死んでしまうので、女もそれを回避しようとタイムリープを繰り返している。最終的には奇跡が重なり、2人の世界線が交わりあってハッピーエンドとなる。あらすじを文字に起こすとそこまで複雑な感じはしないかもしれないが、見ている観客としては常にどの世界線の何の話をされているかが掴めず、置いてけぼりを喰らってしまう。この映画は元々ドラマとして放送されたものの再編集版なので編集技術の問題かもしれないが、中国の他の作品を見てもやはり難解な作品が多い。ひょっとするとオリジナリティを追求した結果、このような事態が引き起こされているのかもしれない。

 

「猫眼」では興行収入や成績をリアルタイムで見ることができる

よく映画のチケットを購入する「猫眼」というアプリでは、各作品の興行収入や監督・役者のこれまでの興行成績を見ることができる。例えば春節映画として大ヒットした「热辣滚烫」の興行収入はわずか1ヶ月で700億万を突破している。日本でも有名なチャンイーモウ監督は監督作だけでこれまで2800億を売り上げている。私の中国人の知り合いは中国映画を見ないと前述したが、人口14億人の国ではそもそもの桁が違うのがよく分かる。後期はもっと密接に映画と関わって、より深く中国の映画市場を知ることができたらと思う。