「中国留学を終えて ~これからの私~」細川詩織(北京師範大学)

10ヶ月の北京留学が終わった。留学経験者たちが口を揃えて言う「留学生活、あっという間だよ」という言葉も始めは信じられなかったが、今こうして振り返ってみるとあながち間違いでもなかったのかもしれない。

 

2023年8月26日、私の中国留学が始まった。

初めてのことに不安でいっぱいで、空港に向かう電車の中で泣き、飛行機の中で泣き、学校に向かうバスの中でも泣いた。

学校に着くと、テレビドラマと同じだ!という安直な感動もつかの間、夜布団の中でまた涙が出てきた。

数日後、入れ違いで帰国する友人たちに会うと、見慣れた顔に安心して、思わず帰りたいと弱音がこぼれた。友人たちは打って変わって帰りたくないと言い、三人で肩を抱いてそれぞれの理由で泣いた。

「大丈夫、絶対来てよかったって思える日が来るから。」彼女が言うこの言葉を信じて、私は涙を拭うしかなかった。

 

一日一日と時は過ぎ、その中で新しい友人たちとの出会いもあり、留学が始まったばかりの頃のように泣くことはなくなった。

様々なバックグラウンドを持つ人たちとの関わり合いが、私を成長させたのだと思う。

同い年の大学院生を見るとすごく憧れたし、帰国した今でも変わらず尊敬している。

反対に自分より中国語の学習歴が短いのにスラスラと話す同級生を見て、劣等感を覚えることもあった。だからその劣等感を原動力にして頑張れた。

 

そして一番の大きな変化は、留学後の進路についてだ。

私は留学前、帰国後は日本の大学院に進学するつもりでいた。もっと勉強したかったし、学部の4年間じゃ全然足りないと本気で思っていた。ただ、それは就職活動に対するアンチテーゼでもあった。

簡単に言ってしまえば、就職活動をしたくなかったのである。

自信満々に言うことではない、と言うかむしろ恥ずべきことだとは思うが、私の言う「就職活動がしたくない」はそこらにいる大学生が口癖のように吐くものとはレベルが違うというか、どうにか就職活動をしないで済む方法はないかと相談して教授を困らせ、3年生になってからと言うもの就職活動に関連する授業やお知らせはとことん無視を決め込んだ。

怖かった。真っ黒なスーツを身にまとい、面接官に将来を語る自分が想像できなかった。今の自分に語れる将来など何もないから。だからアルバイト先の人や親戚からもうすぐ就活だね、と言われるたびに、逃げるように院進希望なんです、と答えてきた。それは留学後も変わらないと思っていた。

 

しかし留学生活中に出会った社会人の方々の話を聞いているうちに、私の想いは自然と変わっていった。

中国で日本語教師をしている日本人の方、日中貿易に携わる商社に勤めている方、日本で会社を経営する中国人の方……私が仕事について聞くと、皆さん生き生きと答えてくださり、最後には決まってこの仕事が好きだという。日中を繋ぐ彼らに、とてつもない魅力を感じた。

 

そんなこんなであっという間に帰国の日がやってきて、あんなに就職活動を嫌っていた私は帰国後毎日のように企業説明会に参加している。

過去の私は面接が怖いなんて言っていたが、面接官は日本語が話せるのだから、何を怖がるものか。

知らない街で言葉が通じない方がよっぽど怖い。今この中国語を使わないなんてもったいないが過ぎるし、私も日中を繋ぐ一員になってやろうじゃないか、という気持ちで就職活動を続ける日々だ。

 

人の考えは周りの影響でこうも簡単に変わってしまう。そして、あの日の自分と友人に言いたい。中国に来てよかったと思える日は本当に来たから、もう泣かなくて大丈夫。