私が留学に来て気になっていることに、中国、特に北京大学の「印刷事情」があります。というのも北京大学で生活しているとさまざまな印刷物を目にする機会が多いように感じるからです。例えば、学内にはいろんな立て看板が設置されています。その内容は、今後行われるイベントなどのお知らせだったり、詐欺注意の啓蒙だったり、特設イベントの目印としての巨大看板だったりします。重要なのが、その印刷やデザインが何かしらの商業イベントに設置されるような看板かと見間違うような高いクオリティなのです。例えば以前、私は北京大学の留学生向けの京劇紹介イベントに参加しました。そのイベントは1日限りのもので時間としては2時間もないくらいだったのですが、壁一面を覆うようなカラー印刷された看板が設置されていました。もし日本の大学で小規模のイベントを開く際に、同じだけの看板を用意できるでしょうか。よくてA3サイズの紙に印刷されたポスター(いらすとやの画像付き)、悪くてホワイトボードにイベント名を書き殴る程度だと思います。
もちろん北京大学の予算と日本の大学の予算の違いだとか、日本と中国で印刷費に差があるという要因はあるでしょう。しかし前提として、中国では印刷物(とデザイン)を重視する比重が日本よりも多いように感じます。デザインが優れた印刷物というのは人の目を引きますし、そういったものがきちんと用意されているというだけでイベントの格が数段上がります。イベントの参加者としての意見を言うならば、単純に気分が上がります。想像してみてください。立派な看板が用意された会場でレクチャーを聞くのと、普段と何の変わりのない教室でレクチャーを聞くのではテンションや心持ちに差が出ると思いませんか。中国に来て知った言葉に「仪式感(儀式感)」があります。これは普段の日常の中に特別な要素を取り入れて、ある時間を大切にするということらしいです。4月に私が参加した「汉语比赛」というイベントは、北京大学の留学生が参加する内輪イベントなのですが、垂れ看板が掲げられているのをみると、普段の授業とは違うのだという高揚感を持つことができました。これも一種の「仪式感」ではないでしょうか。もしも、パンフレットが良い紙だったら、手に触れて何が書いてあるかよく見てみようという気分になりますし、素敵なデザインのポスターや看板があれば写真に撮ってSNSに投稿してみようという気持ちにさせられます。こういった印刷物やデザインは人々を惹きつけて興味を持たせるための効果的な戦略の一つなのだと中国に来て強く感じました。
日本でよく見かける企画として、「〇〇のデザインを一般公募!あなたのデザインが採用されるかも!?」系企画があります。例えば私の大学では、大学のスケジュール手帳の表紙案を学生から公募していました。こういった企画のメリットとしては一般の人々が参加できる形にすることで人々に親近感や参加している感を味わせられることですが、デメリットとして制作物のクオリティが担保されないことがあります。前述の大学のスケジュール手帳は無料配布されていながらも実際に学生がその手帳を使用しているのを見たことがないという何のために作られているかわからない印刷物です。大学側もそれは分かっていてデザインの発注にコストを抑えるために、学生にデザインを丸投げしているのではないかと思わずにはいられません。もしもプロのデザイナーに頼み、印刷に工夫を凝らしたら学生の反応も変わるのではないでしょうか。お金をかけて人々に届くものを作るのと、お金をあまりかけずに誰にも見向きもされないものを作るのではどちらが有効的なお金の使い方だろうかと考えてしまいます。
最後に、中国の印刷物が良いと言っても、現在はデジタル化の時代です。デジタル空間において宣伝・広報はどのように行なわれているのでしょうか。イベント活動などの宣伝媒体として目立つのは微信の公众号です。公众号は団体毎の公式ブログのような雰囲気があります。サークルや学院の公众号には、今度こんなイベントしますという宣伝だけではなく、こないだこんな活動をしましたという活動報告が掲載されていることが多いです。実際学内のイベントに参加してみると、活動報告に載せるための写真を熱心に撮っているカメラマンをよく見かけます(スマホで1・2枚パシャリというレベルではなく、ちゃんとしたカメラでイベントの中ずっと色んな角度から写真を撮っている)。自分が参加した活動報告を見てみると、思い出を振り返ったり、自分の写った写真をみることができたりしてとても面白いです。こうした活動報告も参加者にイベントを思い出させ、自分はこんなイベントに参加したぞという特別感・仪式感を持たせる役目を持っているように思います。
学内だけでなく、学外にいてもこの商品のデザインおしゃれだなと、この広告のデザイン凝っているなと感じることが多いです。私はデザインに関しては完全に門外漢なのですが、中国のデザインのこれからがとても楽しみです。