中国出身の日本人として SNSで日中の懸け橋に

2023年10月1日号 /

モデル、YouTuber
熊江琉衣さん

中国四川省出身。
9歳で日本に来たのち、20歳よりモデル・タレント活動をスタート。
日中の架け橋になる活動をしたいと始めた、中国語学習に関する情報や中国文化を発信するYouTubeが人気。
広告やTVなどでも幅広く活躍中。

YouTube:チャイナ娘くまちゃん

 

YouTubeで中国について発信しようと思われたきっかけは何だったのでしょうか?

タレント活動をやっていたのですが、コロナで仕事の機会が減ってしまって、そこで時間ができたんですね。

私もYoutubeは好きでよく観ていたのですが、ある時に周りから「英語の勉強についてのチャンネルはあるけど、中国語のチャンネルはあまり無いよね」という話になり、では自分でやってみようと思いました。

そこから、少しずつ扱うテーマを広げていったという流れです。

元々中国人のアイデンティティを持つ者として活動してきたということもあり、これによって更に自分の持つルーツについて知ってもらうきっかけにもなりますし、それだけでなく日中友好にも繋がるのではないかと考えました。

 

発信する際に気を付けていることはありますか?

日中両国に居るので、ちょっとした発言で、どちらかを傷つけてしまうということになりかねません。

取り上げる話題によっては、例えば『日本のここがいい!』と紹介すれば、『じゃあ中国のここはダメなのか』という話にもなってしまいがちです。

『日本のここが慣れない』というと、「じゃあなんで日本に来たんだ」という話にもなりかねないので、「確かに慣れないんだけど、それはあくまで私個人の環境への変化から来る戸惑い」であると説明したり、そのあたりの表現は特に慎重にするようにしています。

私が「中国人です」と言って中国のことを発信していると、それを見て下さった方は、私を見て『中国人とは』、または『中国とは』どういうものかを判断されると思うので、そこの部分は特に気を付けるようにはしています。

実際に私のチャンネルを見て、「中国人に対する印象が変わりました」と言ってくださる方もいました。そのような方を増やしていきたいです。

一応私も中国人という肩書でYouTubeをやってはいますが、皆同じ人間で、別に中国人だから、日本人だから云々というのは無いんだよ、ということも少しずつ分かっていただけたらと思っています。

 

これまで、中国の料理などの文化から言語、そしてご自身のアイデンティに至るまで、本当にたくさんのコンテンツを配信して下さっていますが、そのアイデアはどのように考えているのでしょうか?また、モチベーションはどう保っていらっしゃるのでしょうか?

私もYouTubeをよく見ていて、それを参考にさせて戴いています。例えば、日米の違いを動画で出されているのを見て、それの日中版を出してみたら面白いんじゃないかな、と考えてみたり。また、単純に自分が観たいと思ったコンテンツも発信するようにしています。例えば、中国の誤解されがちなステレオタイプの様なものがあると思うのですが、「今は実はそうではなくて、こうなっているんだよ」と、誤解を解きたいなと思っています。

これまでは中国人というだけで、少し肩身の狭い思いをしていたこともあったのですが、発信してみると意外と好きだと言ってくださる方も多くて、それで自己肯定感も上がりました。

 

ご自身のアイデンティティにまつわるお話をされていた動画を拝見しました。発信することによって、熊江さんご自身のアイデンティティの向き合い方、両国に対してなど、考え方や向き合い方に変化はありましたか?

アイデンティティは自分の年齢によっても変わってきていると感じます。

その時々で接する方々だったり、その時の自分の考え方だったり、境遇にもよっても違います。

日本に来たばかりの頃は、自分は中国人でしたし、そこは変えられない事実です。

ただ、日本に長く居るうちに、「私は日本人と言ってもいいのではないか」と思うようになってきました。中国人というだけで、周りからの見る目もやはり変わってしまうこともありました。

名前が中国っぽいというだけで、「あれ、日本人じゃないの?中国人なの?」と言われて、「中国人=良くないこと」だと一時期思っていたこともありました。その時は「日本語もこんなに話せるし、日本人と言ってもいいのではないか」と思ったり、あとは親が帰化をするかどうか決めた時、私はアイデンティティ的にも「日本人になっちゃいたい」とも思いました。

ただ、帰化をして、今は国籍という意味でも日本人になったんですけど、その後大人になってから「中国出身です」というと、皆さんから自分に興味を持ってもらえるきっかけの一つになりました。動画を配信するにあたっても、中国に住んでいたからこそ分かる事とか、自分の中の中国人の部分は実はとても多いんだなと実感した時に、「私は中国人だな」と思ったんですね。なので、白黒ハッキリつけようとするのではなくて、私は「日本人でもあり、中国人でもある」というのが今の考えです。完全にどちらかの側面を消し去ることは出来ないし、そうしたくもない。何人(なにじん)かなんてその人の考え方によっても変わってくるのではないでしょうか。こういう考えがあってもいいと思ってもらえる世の中になればいいなとも思いますし、その為にも配信を続けていきたいですね。

 

アイデンティティの狭間で揺れ動く期間は長かったのでしょうか?

そうですね。日本人として発信していても、私はもともと中国に居たという理由で、中国の方からしたら、「いや、熊江は中国人だよね」と言われることもあります。それもあって、私は日本国籍だけど何者なのか、動画配信をしていく中で考えさせられたことがあって、結局今は「どっちもある」という考え方に落ち着きました。

私はこれからも日本に住みたいですし、住むつもりです。ただ、中国語で「回国 (hui guo)」という言葉がありますが、それは私にとっては中国なんですよね。

 

今後、タレントとして、またyoutuberとして目標はありますか?

自分の目標であった「日中の懸け橋」になるということが、YouTubeを始めて、ある程度達成できているのではと思います。あとは「懸け橋」として、どれだけ多くの人に認知してもらえるか。どれだけ多くの人に影響を与えられるかという部分になってくると思います。今の活動をもっと多くの方に知っていただきたいです。

 

熊江さんにとって、「日中の懸け橋」とはどういう人だと思いますか?

日中両方で影響力のある人だと思います。例えば羽生結弦選手のように、彼のような方がいるだけで、中国人の中で日本人の印象がアップしているなんてこともあると思います。

日本人の中で、熊江がいるだけで中国人の印象がアップする、そんな人になりたいです。そこまでいけるように頑張りたいですし、その為にももっと自分を知っていただきたいですし、もっともっと興味のある人に届いたらいいなと思います。

 

最後に、今後の日中の懸け橋になりたいと思っている方に向けて、メッセージをお願いします!

自分のチャンネルを始めてから、最初は視聴者さんが少なくて、正直大変でした。つい周りと比べてしまって落ち込むこともありました。ただ、観て下さっている方へ影響を与えられているという意味では周りの方とも変わらないですし、確かに時間はかかったけれど、ちゃんとやっていれば、結果はおのずとついてきます。地道に続けていけば、見守って下さる方はきっといます。皆さんもぜひ『発信を楽しむ』という気持ちで、めげずに一緒に頑張っていきましょう!

(東京都日中友好協会青年委員会 郭 拓人)