ライター
斎藤淳子さん
米国で修士号取得後、中国の骨太な姿に圧倒され北京に国費留学。JICA北京事務所、在北京日本大使館勤務を経て、北京を拠点に共同通信、時事通信、読売新聞のほか、中国の雑誌『瞭望週刊』など幅広いメディアに寄稿。NHKラジオやJ-WAVE、TBSラジオなどでも中国の現地事情を解説している。北京在住26年。共著書に『夫婦別姓―家族と多様性の各国事情』(ちくま新書、2021年。中国の章を担当)、『在中国日本人108人のそれでも私たちが中国に住む理由』(CCCメディアハウス、2013年)ほか。
※『シン・中国人 ─激変する社会と悩める若者たち』(ちくま新書、税込946円)は全国書店にて好評発売中!
人間味溢れる中国人に惹かれる
私は1993年からアメリカの大学の修士課程に進学し、そこで数多くの中国人たちと出会いました。当時アメリカに留学できる中国人はもちろんエリート中のエリートでした。また、彼らは過去にたくさんの苦労を経験しているからなのか、人間味にも溢れており、私は彼らの骨太な姿に圧倒され、ぜひこの人たちの国についてもっと知りたいと思うようになりました。その後、北京大学のサマーコースに短期留学し、将来いつか中国に必ず住もうと決意。修士課程修了後に中国政府奨学金を申請し、1996年から再び北京で2年間の留学生活を始めました。途中何度か日本でも過ごしていますが、ほぼずっと北京に滞在し、今に至っています。
人々の根源には愛がある、結婚を切り口に表現
私は、これまで教育、食、文化、社会など中国に関する幅広いテーマを一般の中国人目線で書き、発信してきました。編集者から出版オファーをいただいた時、「本当の中国」の姿を日本の読者に伝えたいと思いましたが、その切り口がなかなか見つかりませんでした。2022年の年初はコロナ禍で社会が閉塞的になり、非常に厳しい状況でした。そんな中で、ふと思い付いたのが、愛のテーマです。人々の根源には愛があるはず。愛をテーマに、若者の結婚や恋愛を切り口にして『シン・中国人」について書きたいと。
『シン・中国人』のシンには「新」しく、「深」く、「真」の、「振」れ動く、「心」の中国の様子を描けたら、などさまざまなシンと読む漢字を当てはめて読者に想像してもらいたい、という思いを込めて付けました。
リアルな中国人へのインタビューや、中国の政策や流行語などをピックアップし、中国が著しいスピードで発展していく中で生じる様々な社会現象や問題について解説しています。中国人と接する機会が多い方、今後中国ビジネスに携わる方には、日本とは違う中国人の感性が生まれた背景をこの本を通して知っていただければと思っています。
シン・中国人と私のこれから
中国の未婚率が上昇した原因は大きく言えば、中国の経済発展です。中国が僅か数十年で世界2位の経済大国に成長したのは、今や世界共通の発展の前提とされている合理主義を大いに発揮したからかもしれません。中国の人はとても合理的ですよね。特に仕事面でも、余分は省き、合理的に数値化して、極めて過酷な競争主義の原理で仕事をこなします。また、優れたスピード感や、不可能を可能にする臨機応変な対応能力などは、今後の国際社会において日本も学ばないといけない部分も多くあります。
その一方で、むき出しの合理化が結婚や子育てにおいても過度に求められ、結婚に結納金や住宅や給与などの経済能力などが重視されるようになりつつあります。結果、結婚を諦める世代が急増し社会問題になっていますよね。合理主義だけでゴリゴリいくと、どうしても人間が阻害されてしまうということが中国では、とても「最先端」の形で表れているように思います。
米国と並ぶ世界最先端の合理的主義でぐいぐいと経済を牽引してきた中国ですが、今後どのように変化していくのか。シン・中国人はこれからどのように日本と交流してくのか。私は北京で中国の変化を見つめ続け、リアルな中国人の視点や考え方を日本に引き続き発信していきたいと思っています。
(井上正順)