残留孤児をめぐる物語に 友好と平和の願いを込め

2022年2月1日号 /

映画監督

ポンフェイさん

(Pengfei,鹏飞)1982年、中国北京生まれ。フランス・パリの映画学校を卒業後、台湾の映画監督ツァイ・ミンリャンのもと、助監督・脚本を務める。長編デビュー作『Underground Fragrance』(2015)はヴェネチア国際映画祭Fedeora賞受賞、シカゴ国際映画祭新人監督コンペティション受賞。2作目の『ライスフラワーの香り』(2017)は、なら国際映画祭で観客賞を受賞し、NARAtive2020映画製作プロジェクトの監督に選出され、『再会の奈良』を手掛けた。

 

2018年のなら国際映画祭で『ライスフラワーの香り』が観客賞を受賞。その後、中国残留孤児と養母との絆を描いた注目の日中合作映画『再会の奈良』(2022年2月4日 日本公開)の脚本と監督を手掛けた。

中国と日本の間には、「痛みを分かち合った悲しい歴史」がある。だからこそ、「みんなが幸せな気持ちになれる“中日友好”をテーマにした作品を作りたい」と、ずっと思っていた。

しかし、いざ日本での撮影が決まると、興奮すると同時に「中国と日本のことをどのように伝えよう」と緊張した。それでも、「中日両国の大きな背景に関わるような物語にしたい」と考え、たどり着いた題材が“中国残留孤児”であった。あらためて書籍やインターネットで調べるうちに、養母達のエピソードを知り、物語の着想を得たという。

「国同士は敵だったのに、中日両国の人々には温かさがあった。そして家族にもなれた。この特殊で運命的な物語を通して、人々の核となる優しさ、心の広さを表現できると思いました」

そこには、自身の反戦の思い、平和への願いも込められている。

日本での撮影に一苦労

映画の撮影に対して、日本は中国ほど寛大ではない。撮影場所や時間の許可申請、役者の安全確保、休憩時間などについての規則が多く、それに順応するだけでも一苦労だった。

さらに、母語が異なるクルーとのコミュニケーションの問題もあった。そこで、エグゼクティブプロデューサーを務める河瀨直美さんのアイデアで、撮影部、演出部などがそれぞれ1つの家に住み、一緒にご飯を食べたりお酒を飲んだりして、自然に会話できる機会を増やすことにした。

そうして助監督と話して生まれたのが、撮影を円滑に進めるためのジェスチャーだ。「リハーサル、このシーンOK、といった身振り手振りによる“新しい言語”を作ってから、言葉の壁が次第に取り払われ、1つの“ポンフェイ組”になれた」と実感している。

いつか、北野武監督と

目標は、“笑いながら泣ける”映画を作ること。『再会の奈良』にも、精肉店を訪れた養母が、動物の鳴きまねだけで店員とやり取りするユーモラスなシーンがある。悲しい歴史と切ない現状が重なる作品中、観る者をふと笑わせ、和ませてくれる印象的な場面だ。

このように「生活の中でクスっと笑えることを見つけて、作品に落とし込むには、長い取材と研究を要する」と言い、奈良県にも約8カ月滞在した。このスタイルは、今後の映画づくりでも貫くつもりだ。

今は中国で商業映画を撮影中だが、「機会があれば、また日本で作品を撮りたいです。できればいつか、一番好きな北野武監督と一緒に撮影できたらいいなと思います」と笑顔で語った。

憧れの北野映画の音楽を担う鈴木慶一氏の音は、『再会の奈良』で温かな風情を醸し出している。ポンフェイ監督の“中日友好”の願いと共に、観客の心に深い感動を呼び起こすだろう。

取材協力:ミモザフィルムズ / 構成・文:本紙広報部