伝統芸能の進化を求め 文化交流の深化を願う

2021年12月1日号 /

(一社)アジア芸術文化促進会代表
中国伝統芸能「変面」役者

王 文強さん

中国安徽省生まれ。12歳より中国伝統劇を学び、安徽省銅陵市芸術劇院所属の役者として舞台経験を積む。2009年から国立中国戯曲学院演劇学科で創作方法論や演出手法を学ぶ。演出と主演を務めた伝統劇作品「秀才与刽子手」で第八回全国戯劇文化賞演技金賞・演出賞を受賞。2014年に来日、日本大学大学院芸術学研究科 舞台専攻卒業。2018年に「一般社団法人アジア芸術文化促進会」を設立し、現在は日本を中心に全国各地で様々な芸術文化を紹介する出演やイベント企画、文化交流、日中青少年交流活動を行っている。豊島区国際アートカルチャー特命大使、日本徽商協会理事。

 

看看看! 音楽に合わせて瞬時に顔が変わる「変面」をはじめ、数々の中国伝統芸能を日本に紹介してきた。

故郷は安徽省馬鞍山市。幼い頃、街中で流れる黄梅劇の音楽を自然と耳にして育った。やがて黄梅劇や地方劇に関心を抱くようになり、12歳頃、黄梅劇専門学校の入学オーディションに参加。そこから、「芸能の道」がスタートした。

専門学校で基礎を身につけ、18歳で劇団の入団試験に合格。地方での旅公演の際は立派な舞台もなく、空き地で上演する事もあったが、「地元の人々が楽しんでいる様子を見るのが嬉しかった」のを覚えている。

そのうち、伝統劇をより深く学び、自身をもっと向上させたいという思いから、北京にある中国戯曲学院(古典演劇を学ぶ専門大学)の受験を決意。劇団の仕事が終わったあとで必死に勉強し、念願を叶えた。

言葉を越える文化交流

2012年、日本のステージに出演するために初めて訪日した際、日本の伝統芸能に触れ、「それまで意識していなかった隣国の日本をとても身近に」感じた。

今後の進路を考えていた時期でもあり、「日本で学ぶのもいいかもしれないと。その時の日本側の受け入れスタッフが今の妻だった、という出会いも決め手の一つではありました(笑)」。

来日後は日本語学校で勉強しながら、ホームステイや地域の催し物に参加する機会もあった。そこで中国伝統芸能を披露すると喜ばれ、「日本語でうまくコミュニケーションが取れなくても、文化や芸能は言葉を越えて伝わると感じました」。

日本の大学院を卒業後、「アジア芸術文化促進会」を設立。日中の伝統芸能ステージやイベント企画を行う一方、「未来を担う日中の青少年交流も大事」と考え、2019年には北京の小学生を招いて東京・福岡での交流を実施した。「北京の小学生達は、日本の学生と一緒に剣道をしたり、給食を食べたり、ドキドキしながら新鮮な体験をし、自分で点てた抹茶を飲みながら日本の殺陣を鑑賞するプログラムでは、とても盛り上がりました」。

伝統芸能の新しい可能性

中国伝統芸能も、伝統の良さを残しつつ、進化・発展できないかと以前から感じていた。そこで新しいチャレンジとして、変面を現代的視点で応用した新たな公演に挑戦する。

本来は、古典劇の中で役柄や心情の変化を表す手法として使われていた変面を、日本の現代演劇に取り入れるという、国内外でも例の無い試みで、変面をしながら台詞を話すことも、日本語での台詞も、未知の領域。日本の演出家・スタッフに変面の仕掛けを明かせないという特殊事情も重なり一筋縄にはいかないが、辛抱強く取り組む日本人スタッフに感謝しながら、日々稽古を積んでいる。

観客には「伝統芸能の新しい可能性を感じて、楽しんで頂ければ嬉しい。〝古典芸能はちょっと遠い存在〟と感じていた方々にも興味を持ってもらえれば」と謙虚に願う。「こうした取り組みをきっかけに、日中両国の文化交流が、より一層深まることを願っています」。