変面と多様性

日中汗ばむ気温となった3月中旬の大阪で、華人研 主催による例会で「変面セミナー+変面実演」をさせて頂く機会に恵まれた。大阪は私が来日後一年間、摂南大学の中国伝統劇研究者、瀬戸宏教授の元で研究生として学んだ思い出の場所。今回家族3人での往訪を暖かく迎えて下さった。

同会としては初めての対外開放形式での開催で、宣伝告知、コロナ禍での安全対策に加えて、開催日は3月11日。東北への思いと防災意識が高まるだけに、万が一の事態に備えた非常口や誘導動線の確認など、運営者にはご苦労をおかけしたが、見事なチームワークでお客様を迎えることができた。

また開催1ヶ月前に、聴覚障害の方から熱い参加希望の連絡があり、「変面の実演は見ての通りで言葉は不要だが、セミナー内容をどう伝えるか……」と頭を抱えた。ただ運営側の実現に向けた強い思いのもと、大阪ろうあ会館へ手話通訳の手配を頂き、セミナーの詳細資料を事前に共有する事で対応する事となった。

当日は「変面の手話はどうやるか」などの擦り合わせを行い(顔の前で手をヒラヒラ振ることで変面の意味として使われた)いざ本番。実演では多くの歓声と拍手を頂き出だしは順調。問題のセミナーでは資料に書ききれない内容も多く、また中国古典の言い方など手話通訳の方には難易度が高い内容だったが、奮闘頂いたおかげで参加者にも喜んでいただくことができた。

最後の質疑応答でも、熱心な質問が寄せられた。印象的だったのは聴覚障害の方からの「耳が聞こえなくても変面ができるのか?」という内容。実は中国国内で耳の聞こえない変面師が存在すると話すと、会場では驚きの声が上がった。

昨今のSDGsや多様性の観点からも、今後幅広い人達に情報を伝達する手段や可能性を広げていきたいと改めて感じた。一人では決して実現できなかった今回の機会、ご協力を頂いた皆様に改めて感謝したい。

文◎王文強(おう・ぶんきょう 変面役者)