稽古の苦悩

2022年10月1日号 /

夏過ぎから本格的に始まった「〜能舞台で繰り広げる「西遊記奇聞」〜『みんな迷い子』」の稽古も、いよいよヒートアップ。昨年は一人芝居だったので自分のペースで出来る部分はあったが、今回はプロの日本舞踊家と声優の方々を共演者に迎えて進んでいく。立ち稽古が開始され、台本に沿って稽古を進めていくと、いつも自分の所で演出家からストップが入ってしまう。

前回の経験から、日本語の台詞は以前よりも頭に入るようになったが、その表現が「固い」という指摘を受ける。声を含めて誇張する表現の多い中国古典劇に比べて、リアルな表現が求められる現代劇では、表現手法が全く異なる点は感じていた。

特に今回は声だけで何役も操ることができる声優・柳沢さんの前では、私の日本語を使ったセリフ表現の固さが、より目立ってしまう。

力を抜いているつもりでも声が力んでいるようで、「どうしてできないのか」と指摘を受け、悩む日々。「演出家に求められたことをその場で表現できなければ終わり」というのが演劇の厳しい世界。理解していても、葛藤や焦り、不安が押し寄せてくる。

そんな時に声をかけて頂いたのが、「Play is Play(演劇は遊びだ)」というイギリスの舞台演出家:ピーター・ブルックの言葉。私も今回の舞台を大いに楽しまなければ、それを見にきて頂いたお客様に楽しいと思って頂ける訳がない。一人の外国人として能舞台で表現できるチャンスに感謝して、この舞台を通じて迷い・冒険しながら、大いに楽しみたいと思う。

文◎王文強(おう・ぶんきょう 変面役者)

現在稽古中の『みんな迷い子』は11月1日・16日に東京の国立能楽堂で上演します。ぜひご来場ください。