変面への喜怒哀楽(続編)

日本の変面の現状に危機感を抱いていた頃、日本人の青年M君が連絡をくれました。彼は独学で変面を学び、地域の商店街などで数回変面を披露したこと、独学に限界を感じ今後は中国伝統芸能の基礎や技術をしっかりと身につけたいという意向などを話してくれました。

私は数日悩みましたが、彼が変面という中国の文化芸術を尊重し、真摯に向き合おうとしている姿勢が伝わり、伝統芸能としての変面文化をしっかりと伝えたいという思いから、弟子候補として指導をお引き受けしました。

M君は東北在住で、最初の数ヶ月はオンライン指導をメインに、身体の使い方や体幹・柔軟性を高める伝統芸能の基礎稽古を行いました(稽古初日の翌日は全身筋肉痛で動けなかったようですが、中国伝統芸能では身体の可動域を広げ、しなやかな動きを作るためにも体幹や柔軟性が重要です)。

一通りの動きができるようになると、いよいよ対面での稽古です。一週間程の日程で、まず衣装が身体にフィットしているかの細かいチェックと補正を数日間行い、その後対面で演舞・所作の稽古をしました。

稽古の様子

M君は対面での稽古にとても緊張していましたが、稽古前後に一緒にご飯を食べ、プライベートの話もする中で徐々に緊張も取れ、関係を深められました。

そして稽古最終日前夜。正式にM君を弟子として迎える儀式を行い、彼は変面の芸名「王拓希」を襲名しました。彼に渡した扇子には「变面不变心(面は変えても心は変わるべからず)」という変面に対して真摯に向き合う誠実な心、機密や文化を守る精神の大切さを謳った言葉を送りました。

弟子入り儀式のあとに

稽古を通じて、M君の演舞や技、身体の使い方は確実にレベルアップし、変面文化への理解も深まったと確信しています。

しかし芸に終わりはなく、身につけた基礎をベースにこれからも鍛錬を積み、沢山の人に感動を届ける変面の伝承者になってほしいと期待しています。また私自身もそうなれるよう、これからも進化・精進していきたいと思います。

文◎王文強(おう・ぶんきょう 変面役者)