先日、東京都文京区主催、日中友好会館との交流事業による「中国伝統芸能セミナー」で講師をさせて頂いた時の話です。
コロナのため数回延期になり、年を越えてやっと実現できた今回の企画。応募総数200名以上の中から抽選で選ばれた60名の方々に参加頂き、多くの区民が中国の伝統芸能に興味を持ってくれている事を素直に嬉しく感じました。
セミナーでは中国伝統芸能の歴史や基礎知識、また地方による劇種の違いについて実演しながらお伝えし、休憩を挟み「変面」のパフォーマンスを披露。
最後の質問コーナーで「どうして中国伝統芸能を始めようと思ったのですか?」と聞かれ改めて振り返りました。
色々な理由がありますが、一つのきっかけとしては90年代に中国で流行した「香港映画」の影響があります。
当時、香港から入ってきたアクション映画をよく見ていて、「成龍(ジャッキー・チェン)」や「李小龍(ブルー・スリー)」など有名俳優が華麗な武術や空を飛ぶような身のこなしで、悪役を倒す物語を見て憧れを抱きました。「僕も练功(身体を訓練して)をしていつか空を飛べるようになりたい」と思い、当時身近で练功ができる伝統劇を学ぶようになりました。
しかし、13歳で専門学校に入ると予想以上に辛い現実が待っていました。寮では毎朝5時起床、身体の柔軟や体幹を鍛えるためのトレーニングを受け、出来が悪いと杖を持った教官に叩かれ、逃げ出しそうになりながらも、いつか空を飛べる事を目指して訓練を続けていたのを思い出しました。
そして20年以上経ちましたが、未だに空は飛べません(笑)
それでも柔軟さや体幹、発声方法や型の基礎については、当時学んだことが今も身体に染みついていて、今ではこのように皆さんにお伝えできることができている事に感謝しています。いつか舞台での演出で空を飛ぶアクションを使い、当時の夢を実現させられたら……と思っています。
文◎王文強(おう・ぶんきょう 変面役者)