これを書いている現在(2022年5月末)、上海はロックダウン中である。
新型コロナウイルスが世界中に広がって以来、ロックダウンという言葉は耳にするし日本でも緊急事態宣言を経験したが、国によって違うやり方を身をもって体験している。
ロックダウン全体の話は日本のニュースでも取り上げられているのでここでは省くが、個人的に面白い体験なのは保供物资(大礼包)と呼ばれる政府から配給だろう。夫の実家が家庭菜園をしているのでお裾分けでもらうことはあっても、政府から野菜をもらう体験など私の人生の中ではそうそうない。
配給は不定期で、地区によって頻度・内容が変わる。私が住むエリアは大体1〜2週間に1度7~10種類くらいの野菜がダンボールにバサッと詰め込まれてやってくる。
キャベツや白菜、キノコ、トマト、きゅうりなど日本でもお馴染みのものから、マコモダケ、茎レタス、糸瓜などこちらならではの野菜もある。野菜だけでなく肉や魚、豆腐や麺類、調味料などが届くエリアもある。
取り扱ったことのない野菜もそうだが、多くの日本人を困惑させたのは足と頭つきの丸鷄一匹配給かもしれない。
日本では普段の食卓で丸鷄でスープを作るなどの習慣がないため、普段はこちらに住んでいてもすでに部位ごとにさばかれた鶏肉を買っている。
私自身も丸鷄を扱うのは初めての経験だった。失敗したときの億劫さとショックを考えるとなかなか普段は自分で買う勇気が出ないが、意外と筋肉の構造を考えながら包丁を入れるときれいにさばけるという発見ができて面白かった。
見たことのない食材でも今はネットで取扱い方がすぐに分かる。野菜も丸鷄もさばき方を見ながら調理し、それをまたネット上でみんなで分かち合う。この2ヶ月、先が見通せずしんどさがなかったといえば嘘になるが、6月の声が聞こえ始めだんだんと解放の雰囲気が広がり始めた今、食を始めとした「この時ならでは」の体験は今後の人生の話のタネになると信じたい。
(茂木美保子@上海)