食文化の多様さで知られる中国。筆者は長年にわたり、日本人がほとんど口にしないであろう食材を各地で食べ歩いてきた。見た目で敬遠されがちな「ゲテモノ」だが、食べてみると、想像以上の美味さに驚かされることも少なくない。そんな体験談を23年7月号で紹介したが、第二弾の今回は、よりインパクトのあるものをチョイスしてみた。どれも思わず「好吃(おいしい)」と唸った、その土地の名物ばかりである。機会があれば、ちょっと勇気を出して、ぜひ試してほしい。
(内海達志)
「羊頭狗肉」も食材に
日本で「ペット」といえば、最初に連想されるのが「犬」だろう。その犬が中国では当たり前のように食べられており、愛犬家の読者に嫌われてしまいそうだが、筆者の好物のひとつである。
中国語で「狗肉」と書く。「羊頭狗肉」の語源は「羊の頭を看板に掲げ、実際は犬肉を売る」という意味だから、羊肉よりは下に位置付けられているのかもしれない。
東北地方や貴州省で特に愛好されており、筆者は錦州市(遼寧省)で茹で肉(写真①)を食べた。ゼラチン質の弾力ある皮と、少し臭みが残る野性味あふれる肉の食感が絶妙で、ビールとの相性も抜群だった。

①食用の犬は専用に育てられている
犬肉は、炒めてよし、鍋にしてもよし。部位も余すところがなく、なんとペニス(写真②)まで使い切る。まさに「珍食」であるが、「狗鞭」といい、滋養強壮に効果があるようだ。都江堰市(四川省)で体験した「狗鞭」は、値段が高い割には硬いばかりで、格別な味ではなかった。

②他の動物でも「鞭」は好んで食される
韓国でも古くから犬肉文化が定着しているが、近年は嫌悪感を示す人が増えているという。こうした声を受けて、韓国政府は今年1月、「犬食用禁止法」を成立させた。「ポシンタン」(補身湯)というスープは絶品だったのだが、若い世代には受けないだろうと思う。
中国では「羊頭狗肉」の「羊頭」のほうも、ふつうに市場で売っている。広州市郊外(広東省)で見つけたのは「山羊頭」(写真③)だが、市場の近くの食堂で食べたスライス肉は、要は豚のカシラと同じだからうまかった。

③頭も無駄なく用いるのが中国流だ
これは知っている日本人も多いと思うが、中国語で豚肉は「猪肉」。イノシシ肉は「野猪肉」である。本来は「子豚」の意味を持つ「豚」の字はほとんど使われず、モルモット(豚鼠)やフグ(河豚魚)など、主に動物名にのみ用いられる。
豚肉自体は珍しくないものの、顔(写真④)、耳、尻尾、皮(写真⑤)、脳(写真⑥)など、とにかく部位のバリエーションが豊富なのだ。

④食堂に「顔」がたくさん 干してあった

⑤豚の皮はコラーゲンがたっぷり

⑥脳を食べると人間の脳にもよさそうな気が――
顔と耳は、沖縄県ではチラガー、ミミガーとして広く親しまれているが、中国のものも耳はコリコリ、顔はほどよいゼラチン質で、皮は表面が北京ダックのようにカリッとしていて、どれも酒肴にぴったりだ。顔は青城山麓(四川省)、皮は嘉峪関市(甘粛省)で味わった。
脳は貴陽市(貴州省)で食べた。スープに入れるのが一般的で、トロっとした食感は、おぼろ豆腐や、たち(タラの白子)といった感じだ。臭みはなく、クリーミーな深い味わいが口いっぱいに広がる。
日本にはない食文化だが、脳は中東でもよく食べられている。イスラム圏なので、もちろん羊だけであるが。
モロッコのマラケシュにあるジャマ・エル・フナ広場には、日が落ちるとたくさんの露店が並び、自慢の味を競う。何にしようかと迷っている筆者に地元の男性が「ぜひこれを食え」と勧めてくれた、羊の脳スープの味が忘れられない。
見た目と味のギャップ
ほとんどの日本人が苦手とするヘビ。筆者も触るのは勘弁願いたいが、食べるのであれば大歓迎だ。
海口市(海南省)には海鮮料理店が多いのだが、新鮮な魚介とともに、多種多様なヘビ(写真⑦)も店頭に並んでいた。
ヘビもスープでいただくのが一般的で、その味は非常に淡白である。あっさりしたウナギと例えればよいだろうか。あまり食べたことがないので比較が難しいが、ウナギよりはハモに近いかもしれない。

⑦中国はヘビの種類も豊富。味が違うらしい
見た目のグロテスクさでヘビに引けを取らないのが、「ユムシ」(写真⑧)と呼ばれる極太ミミズのような生物だ。中国語では「海腸」などと呼ばれる。
日本では、恐らくは全国で唯一、北海道の石狩市浜益地区でのみ食用されている。地元での呼称は「ルッツ」。アイヌ語で「ミミズに似たもの」という意味らしい。

⑧「海腸」。ぴったりのネーミングだ
中国人はよほどこれが好きらしく、海のある街ではよく目にする。煙台市(山東省)でスープと炒め物を食べたが、ほのかな甘みもあり、筆者はヘビよりも断然こちらが好みである。海で遭遇したら気持ち悪いと感じるのだろうが、店頭で見かけると「おいしそう」と感じるのが自分でも不思議だ。
ヘビやユムシと比べれば、カエルはハードルが低いのでは。日本でも食用ガエルが流通しており、加工済のレッグなどを通販サイトでも買うことができる。
ただ、日本と違うのは、ヘビと同様、生きたカエルが店頭に並んでいる点だ。瀋陽市(遼寧省)では、「紅焼牛蛙」(写真⑨)という一品を食べた。店員が皮を剥くかどうか聞いてくれる場合もあり、筆者は必ず皮ありを注文する。皮の部分はウナギのようで、身は鶏肉のような感じ。少し小ぶりなカエルは「田鶏」と呼ばれるから、中国人も鶏肉に近いと感じているのだろう。

⑨カエルはぶつ切りなので、原形がよく分かる
最後はワニ。頭部を切断された状態(写真⑩)で売っているので、慣れない人には刺激が強すぎるかもしれない。産地は分からないが、ゲテモノ食いでおなじみの広州市(広東省)で食べた。

⑩口をテープで塞がれているのが生々しい
このときは、現地在住の知人女性3人が一緒だったのだが、ワニに興味を示す筆者に冷ややかな視線を向けるので、「自分が全額支払うから」と言って納得してもらったのである。頼んだのは、ワニ肉と内臓(写真⑪)の炒め。ワニ肉もまた鶏のササミのように淡白で、内臓のほうは焼き肉のホルモンに負けない濃厚さがありながら、思いのほか後味はあっさりしていた。

⑪あらゆる内臓を食べる中国だが、ワニのものは特にうまい
ここで紹介した食材はどれもハズレがなく、また食べたいものばかりだ。
これだけ「食」の魅力が詰まった中国で、「食わず嫌い」はもったいない。