太古の仙人・赤精子

2024年11月1日号 /

封神演義

先の二回は、仏教に由来する仙人を紹介した。今回は、古くから仙人としての記述が様々見られる赤精子(せきせいし)を紹介したい。

赤精子は古代伝説の帝王・五帝の一人である顓頊(せんぎょく)の頃の人とされ、『神仙伝』や『捜神記』など多くの書物に名前が見られる。その内容は、かつて赤精子という仙人がいた。赤精子は経典を用い道を説いた、など概ね似通っており、古来より広く知られた仙人の一人である。

『封神演義』での赤精子は、太華山雲霄洞(たいかざん うんしょうどう)に住み、十二大仙の一人である。また、以前に殷洪の紹介をした際に、その師匠が赤精子であると述べたことを覚えておられる方もいるであろう。妲己の計略から殷洪を救い出し、そのまま弟子として育てていた。しかし殷洪は下山する際に赤精子と交わした約束を破ったために赤精子が泣く泣く討ち取るという結末を迎えた。

この他、赤精子の活躍する場面は、闡教の道士たちが力を合わせ聞仲を追い詰めた際に燕山で聞仲を退ける、玉鼎真人・道行天尊・広成子とともに誅仙陣を破るために活躍するなど多々あるが、十天君の一人、姚天君(ようてんくん)との三度に渡る戦いも見せ場であろう。姚天君は、その名を姚賓(ようひん)と言い、落魂陣を操る。

一度目の戦いは、周軍が十天君と全面衝突をする前。姚天君は呪術を用い姜子牙の体から三魂七魄を一つずつ抜き取り呪い殺そうとする。そこに姜子牙を救うために赤精子は崑崙から下り、単身落魂陣に挑み、陣中で姜子牙を模した藁人形に呪詛を唱える姚賓を襲う。だが、すんでの所で姚賓に気づかれ、赤精子は陣から退却する。

そこで赤精子は大羅宮玄都洞の老子に助けを求め、太極図を借り受ける。太極図は森羅万象を司る宝器である。太極図を手に再び落魂陣に挑んだ赤精子は、姚賓の反撃に遭い太極図を陣中に落としてしまうが、藁人形を奪い取ることには成功し退却する。これが二度目である。

最後は十絶陣を破るため燃灯道人の命を受け、赤精子は落魂陣に踏み入る。三度目となると陣中でも落ち着いて攻撃に対処し、携えた陰陽鏡によって姚賓を討ち取り、太極図を無事に取り戻し陣を破る。

このように赤精子は、他の十二大仙に比べ物語の要所で活躍が描かれているように思う。それは古くから知られた仙人であるためか、はたまた私の思い込みだろうか。

文 ◎ 二ノ宮 聡
1982年生まれ。中国文学研究者。中国の民間信仰研究。関西大学大学院文学研究科中国文学専修博士課程後期課程修了。博士(文学)。北陸大学講師。

絵 ◎ 洪 昭侯
1967年、中国北京生まれ。東京学芸大学教育学部絵画課程卒業。(株)中文産業のデザイナーを経て、2014年、東方文化国際合同会社設立。