『封神演義』には数多くの魅力的なキャラクターが登場している。もしもキャラクターの人気投票をしたならば、トップ5に楊戩(ようせん)は必ず入るだろう。
楊戩は太公望と同じ闡教(せんきょう)の仙人で、崑崙十二大仙の一人、玉泉山金霞洞の玉鼎真人(ぎょくていしんじん)の弟子であり、清原妙道真君の名を与えられている。その姿は、扇雲冠を頂き、水合服(道服)をまとい、手には長槍を持つ。さらに額には第三の眼がある。他にも哮天犬(こうてんけん)を連れている。これだけでもかなり強そうな印象を受けるが扱う術もすごい。かつて九転元功の術を修行し、七十二の変化の術を身につけている。変化の術といえば『西遊記』の孫悟空を思い浮かべる方も多いと思われるが、実は『西遊記』にも登場している。『西遊記』での楊戩は、各地で大暴れをして天界の武将でも押さえつける事のできない孫悟空と互角に渡り合うほどの力を持つ。その姿はやはり三つ目であり、しかも美丈夫である。そして変化の術を使い、梅山七怪を引き連れ、玉帝の甥という出自であり、もはや家柄・容姿・実力の三拍子が揃った皆が憧れるスーパーヒーローのようである。
『封神演義』での楊戩は、截教の魔家四将(まけししょう)に襲われ、人的・物的に大損害を受け、何も打つ手がない太公望のもとへ玉鼎真人の命を受け援軍にやってくる。そして変化の術を使い単身敵陣に侵入して、魔家四将の宝器を破壊や奪い取り、反撃の契機をつくる大活躍をする。また楊戩が梅山七怪を部下にする場面も描かれる。ちなみに魔家四将は、寺院の山門で目にする四天王のことである。
小説中では大活躍をする楊戩は、民間信仰では二郎神と呼ばれ、「戦う神」とされる。中国の歴史上、二郎神と目される人物はたくさんいて、李二郎、王二郎、趙二郎と色々な姓があり、最終的に楊二郎が定着していくのだが、本当のところ姓は不明である。二郎神の考証については紙幅の関係で割愛させていただくが、興味のある方は民間信仰の二郎神にも目を向けていただければと思う。
文◎二ノ宮 聡
1982年生まれ。中国文学研究者。中国の民間信仰研究。関西大学大学院文学研究科中国文学専修博士課程後期課程修了。博士(文学)。北陸大学講師。
絵◎洪 昭侯
1967年、中国北京生まれ。東京学芸大学教育学部絵画課程卒業。(株)中文産業のデザイナーを経て、2014年、東方文化国際合同会社設立。