「麻雀NANAの中国Z生活」著者で、清華大学MBA在学中に北京で起業した新出歌名子さんの一時帰国に合わせ、本紙は3月12日、本部事務所で青年委員会メンバーとの座談会を開催しました。参加者は中国でのビジネスなどについてざっくばらんに話し合い、有意義な時間を過ごしました。
(協力 全国青年委員会 / 訳・構成 佐野 聡)
まずは自己紹介から
井上 今日は、新出歌名子さんをメインゲストに、各地の協会からも若いメンバーに集まっていただきました。はじめに自己紹介をお願いします。
齊藤 東京都日中友好協会青年委員会の齊藤蓮と申します。新出さんは清華大学在学中に起業されて、中国を拠点にビジネスに携わっておられるということで、お話をお聞きしたいと思い参加しました。
菊池 千葉県日中友好協会青年委員会の菊池美希と申します。中国でのビジネスに純粋に興味があり、お話をお聞きできたらと思っております。
張 神奈川県日中友好協会青年学生部会の張嘉旗と申します。大学院で文化人類学を専攻しております。日中の貴重なお話を伺いたいと思います。
新出 新出歌名子と申します。北海道出身です。日本の大学を卒業後、中国、そしてニュージーランドで働き、2018年末にまた北京に戻りました。
元々、文化的な仕事に携わりたかったのですが、その前に清華大学のMBAで人脈作りをしようと考えました。中国社会ではネットワークが重要だからです。
入学が19年。中国ではキャラクター、アニメなどの分野の市場規模が伸びていることを知り、私と中国人の友人と日本人の漫画家の仲間3人で“漢字”をテーマに日中の若者の相互理解や文化交流を促進できるキャラクターを作ったら面白いのではないか、と始めたのが“漢字幻獣”シリーズの創作です。
日中両国で、同じ漢字でも意味が違うものってありますよね。たとえば「麻雀」。日本語では「マージャン」、中国語では「スズメ」です。麻雀NANAはマージャンとスズメの融合キャラクターなんです。こうした日中の漢字の意味の違いを融合して可愛いキャラクターにしたのが“漢字幻獣”シリーズで、このコンセプトでキャラクターを36個作りました。
それにコンテンツをつけ、ストーリーをつけて発信しようとしましたが、マネタイズ(収益化)が難しい。そこで人気投票を行い、一番人気が高かったこの「麻雀NANA」(持参したぬいぐるみを指す)をまず前面に押し出し、ライセンシングアウトを通して製品化することにしました。
そうして中国で起業して、紆余曲折を経て今に至ります。(編集者註:薛さんは座談会に遅れて到着)
清華大学MBA時代
張 社会人が世界トップレベルの清華大学のMBAに入るのは、難しくないのですか?
新出 試験はGMAT(Graduate Management Admission Test)のような英語と数学の筆記試験、英語のエッセイ、面接の3つで、日本の入試面接と異なるのが、大学にどんな価値を提供できるかをアピールしなくてはならないところ。どういう能力があって将来どうしたいのかを、自分の経験と共に説明できなければなりません。
入学後も価値の交換が求められるんですよ。価値を交換しながら、仲間になっていく。そういう意味では非常に現実的です。
入学者の平均年齢は34歳程度。社会人として十数年実績を積み、自分なりに資金もできて、会社での昇進や起業、投資などの面でさらなる飛躍を求める人たちが入るところです。
私の場合、入学してすぐに新型コロナウイルスの影響を受け、授業もすべてオンライン授業に切り替わりました。元々は卒業後本格的に起業するつもりでしたが、コロナ発生を通して、未来は不確定で3年後はおろか1年後の状況も予測できない状況を目の当たりにしました。やりたいことがあるのなら先延ばしにせず今始めようと思い立ち、会社を辞めて北京に会社を作り、一からキャラクター事業を始めることにしました。ただ現実は難しく、特にオフライン活動が制限されたことが営業活動などをする上で厳しかったですね。
中国ビジネスに挑戦しようとしたわけ
菊池 中国と日本のビジネス環境や労働文化で、特に大きな違いは何ですか?
新出 人付き合いのやり方が違います。社内でいうと、中国では距離感がとても近い。上司に対しても「姐姐(お姉さん)」と呼んだりします。上司と部下の間柄でも、組織での立場を超えた関係性を築けると、悩みなども話しやすくなって仕事もスムーズにいく、というのはあります。
中国の日本企業で働く場合、日本人スタッフとして求められるのは、上司と現地の中国人スタッフとの間を繋ぐこと。加えて、現地の人の言葉を理解しつつ、同時に日本人としての常識もわきまえている、という能力も必要です。
張 日本から中国に飛び出そうと思われたのはなぜですか?
新出 中国市場が面白いからです。人口が15億、Z世代だけでも2億5000万人くらいいるので、一つターゲット層を決め、その層が関心を持っていることやニーズを満たせるサービスを突き詰めていけば、ビジネスが成立します。つまり、新しい起業者にとってもまだまだチャンスがあり、人口が多く変化も早いので絶えず新しいことに挑戦し続けられるというのが、中国市場の大きな魅力です。
私の周りの中国の若者は、マインドが違います。例えば会社に不満があると、それは業界全体の問題かもしれないから、その解決策となるサービスを提供できれば、多くの会社が必要としてくれる、つまり、ビジネスチャンスだととらえる方が多い。そうやって、起業していった中国の若者をたくさん見てきました。その起業のスピードも、速いんですよ。
井上 1週間くらいで起業してしまいますね。
新出 起業しても、完成したものでなくていいんです。とりあえず市場に出してみて、フィードバックが返ってきたら、またそこで変えればいい。そういう柔軟な考え方をもっているのが、中国人のすごいところだと思います。
中国の今どきのZ世代
新出 中国のジェネレーションギャップについて、思うところはありますか。
薛 「00後(2000年代生まれ)」はデジタルネイティブで、電子機器の影響が色濃く、私を含む「90後(1990年代生まれ)」は紙の本に抵抗がありません。私は教師をしていますが、「00後」の生徒は分からないことがあると、何でもスマホで調べます。それに対して、私は紙の辞書を愛用しています。その点が1つ目の大きな違いだと思います。
2つ目は、「00後」の間でショート動画が流行っていることからも窺えるように、彼らはすぐに結果を欲しがり、すぐに飽きます。「90後」や少し先輩の方々は、粘り強く取り組む傾向があると思います。
新出 それは感じますね。中国の若者の、流行の移り変わりは早い。SNSのトレンド(盛り上がっている話題)に上がっても、2週間くらいで別のトピックに置き換わってしまいます。日本よりも、流行のサイクルが短いと感じます。
みなさんの周りにいる日本人で、中国のトレンドに興味がある人は多いですか?
齊藤 私の周りの人は、割と多いイメージです。今、中国から日本に入ってくるアニメや映画がすごく増えたと感じていて、中国独自の文化、いわゆる「国風」が組み込まれているのが魅力だと思います。
新出 中国の食べ物は?
井上 中国に行ったことがない、もしくは中国という国には興味がなくても、中国の料理には興味がある、という層が一定数いますね。
齊藤 中国のメイクも、そういうところがあると思います。
菊池 周囲はみんな、RED(小紅書)といったSNSで、中国で流行しているワンホンメイクをチェックしています。
齊藤 中国だからというより、一つのコンテンツとして優れているから、日本でも受け入れられていると思います。
日本人として中国に生きる
齊藤 新出さんは、中国の文化を理解する上で、何が大切だと考えていますか?
新出 中国にいて感じるのは、一概には中国を語れない、ということですね。自分が中国通だなんて、絶対に言えないです。
中国は人も多く、年齢層や地域によっても考え方や価値観が全然違います。例えば北京の人はこうだとか、四川の人がああだとか、そういうステレオタイプは確かにありますが、でも、それが絶対ではない。だから、個人として、パーソナルな付き合いを大事にしています。それを通じて、小さな理解が積み重なっていき、中国に対する理解も徐々に深まっていく、というのはあると思います。
最後に感想を
井上 最後に、今日の感想をお願いします。
張 私は中国人ですが、中国人が感じる中国と、新出さんのように日本人から見た中国との間に大きな違いがあるのが、興味深かったです。自分の研究テーマである“他者理解”をさらに深掘りしていく上でとても参考になりました。
齊藤 日本人だから、中国人だからとかではなく、新出さんが仰ったように、住む場所や世代、性別によっても考え方が違うわけで、個人として付き合うこと、1対1で向き合うことの重要性について改めて考えさせられました。オフラインでの交流が戻ってきた今だからこそ、そうしたものがよりいっそう求められているのかと思います。
菊池 中国では一つの層を見極めれば大きなマーケットが出来る、というお話が印象に残りました。日本では細かくマーケット分析をしなくてはいけないと思いますが、中国は市場が大きいので一つの層を当てれば大きな利益になる、ということが日中の比較として興味深かったです。
個人個人の付き合いが大事、というお話も共感できました。中国は広くていろんな人がいる、ということを基本認識として忘れないようにしたいと思います。
薛 相互理解にはある種のオープンさ、寛容さが大事だと思いました。私は日本に留学に来た側ですが、実際に日本に来てみると、留学前のイメージと異なるところ、驚かされること、戸惑いを覚えることが当初は多々ありました。しかし、日本での生活に溶け込んでいくうちに、中国と異なる日常の習慣も日本の文化の一部分なのだと気づけるようになりました。そうやって交流を続ける中で、私自身、国それぞれの文化に対する視野が広がりましたし、一つの文化にとらわれず世界を見ることの大切さを実感しました。
新出 今日、みなさんからいろいろと中国に関することを伺えて、参考になりました。
最後に若いみなさんに伝えたいのは、「自分のやりたいことや夢は口に出して周りに伝える」ということです。自分から要望を発信し小さいことでもよいのでそれを叶えるために実行することで、不思議なことに色々な機会やご縁が引き寄せられ、協力してくれる方や助けてくれる方が出現するからです。
図々しくてもいいんです。自分が他の方の夢に協力できる状況になった時に、そこで“恩返し”すればよいと思っています。
(参考)
【X】
麻雀小七Nanaの日常 @majansuzume
東京都日中友好協会 青年委員会 @nicchu_tokyo
神奈川県日中友好協会 青年学生部会(チャイ華) @chaika_jcfa
【Instagram】
千葉県日中友好協会 青年委員会 @jcfa_chiba_youth
東京都日中友好協会 青年委員会 @jcfa_tyo_seinen
神奈川県日中友好協会 青年学生部会(チャイ華) @chaika_jcfa
【HP】
(公社)日中友好協会 全国青年委員会