日本のコンテンツは中国でも愛されている ― 「日中エンタメの“架け橋”」・俳優の良知真次さんに聞く ―

2019年10月1日号 /

NPO法人日中映画祭実行委員会が主催する「東京・中国映画週間」が2019年10月22日から29日まで都内で開催される。今年、同実行委員会のプロデューサーに就任したのは、昨年の中国公演が成功した2・5次元ミュージカル、ミュージカル「陰陽師」~平安絵巻~で主役の晴明(安倍晴明)を演じた良知真次(らち しんじ)さん。俳優の傍ら人材育成やプロデュース業など多方面で活躍し、中国との接点も増えつつある良知さんに話を聞いた。(本紙編集部)

 

(らち・しんじ)1983年生まれ。東京出身。15歳で芸能活動をスタート。ジャニーズ事務所や劇団四季、東宝芸能での所属を経て実力派俳優として活躍の場を広げる。近年はタレント活動の傍ら、 振付、演出、プロデュースなどで才能を発揮。2017年には宝塚歌劇団・月組公演『瑠璃色の刻』の振付を手掛けた。18年に株式会社World Codeを設立し、 代表取締役に就任。淡路島アニメパーク『ニジゲンノモリ』のエグゼクティブプロデューサー および観光親善大使に就任し、パソナグループのエンターテイメントプロジェクトの総監督も務める。

―― 今回、日中映画祭実行委員会のプロデューサーになられた経緯を聞かせてください。

2年前にライブ・スペクタクル「NARUTO―ナルト―」~暁の調べ~という舞台の上海公演があった(うちはイタチ役で出演)。オープニングで後ろからお客に振り返るだけなのに「キャー」という歓声が起こり、「オレって、こんなにスターなの?」と勘違いしてしまうぐらい(笑)。演じたイタチは日本だけでなく、中国でも大人気だとわかった。初めて中国で役者として出演し、観客の熱気のすごさを実感したと同時に、『NARUTO』(日本のマンガ作品)というコンテンツが中国でこんなにも愛されていることを目の当たりにした。

その後、昨年は北京、深圳、上海で「陰陽師」公演があった。原作は中国でつくられ全世界2億ダウンロードされたゲームで、それを日本側が2・5次元ミュージカル(*)にした日中合作のもの。主人公の晴明を演じさせてもらったが、中国語の字幕が出る前に日本語のセリフを言っただけで観客はダイレクトに笑ってくれた。それぐらい日本語を知っていた。カーテンコールや劇場からバスまでの移動の時には日本語で話しかけてくれて、「どこで覚えたんですか?」と聞くと、日本のアニメで学んだと教えてくれた。15歳の時にジャニーズ事務所に入り、Kinki KidsやV6のバックで踊っていた時代に香港や台湾での公演を経験したことがあるが、ファンの中には「あの時以来、『NARUTO』で良知さんを観ました」と日本語で手紙をくれた方もいた。日本のコンテンツは中国でも愛されていると感じたと同時に、日本と中国のために役者として、アーティストとして何かできないかな、と思うきっかけになった。

 

―― 以前からプロデュース業に興味はあったのですか?

おかげさまで昨年に芸能生活20周年を迎えた中、「この次には違う道があるんじゃないか」と考えるようになった。ありがたいことに昨年の仕事はすべて「主演」をいただいたが、主演をしながら、若手俳優らと一緒に仕事をする中でいつしか自分は演技を指導をする立場になっていた。しかし、役者としての後輩への指導は公演が終われば終わってしまう。そこで「自分で組織を立ち上げプロデューサーになれば、ずっと育てていけるのではないか」と考えた。そして、「自分はこれをやりたいんだ」とあらためて気づかされた。

 

―― 現在は、主にどんな活動をされているのですか?

ミュージカル「陰陽師」~平安絵巻~の中国公演で晴明を演じる良知さん

昨年11月に会社を立ち上げ、プロダクションや舞台製作をやっている。また、代々木アニメーション学院で2・5次元演劇科と声優タレント科の特別講師として講義したり、淡路島にある「ニジゲンノモリ」(アニメとゲームのコンテンツを使ったテーマパーク)のプロデュースも行ったりしている。さらに、パソナグループのエンターテイメント事業の総監督とエグゼクティブプロデューサーを兼務しているので、6月に中国で開催された「上海・日本映画週間」では、所属のタレントを連れて行き、歌のプロデュースや振り付けなどを行った。中国では2・5次元舞台の人気が高まっているので、中国で活躍できる人材の育成にも興味がある。また、「ニジゲンノモリ」は地方創生プロジェクトの一環でもあるので、こうしたテーマパークに中国の人を呼ぶなどいろいろな人の交流を日中間でできればと思う。スケジュールの問題で実現しなかったが、以前に中国の芸術学校から講義の依頼をいただいたこともある。

 

―― 日中映画祭実行委員会プロデューサーとしての今後の抱負を聞かせてください。

映画という一つのくくりの中で、様々なことに可能性を込めてやりたい。例えば、中国の映画を舞台化してみたり、ショーにしてみたり。また、日本で流行った映画を使って中国で何かをやってみたり。これまでジャニーズや劇団四季などの活動のほか、宝塚歌劇団の振付などもやってきた。自分の経験を生かした育成、プロデュースを行っていきたい。

日中間には様々な問題もあると思うが、芝居や歌、踊りなどを通して、役者でいえば言葉、歌ならメロディー、踊りだったら表現と、壁があっても越えていけると思うし、そういうことを大切にしないといけない。最近は日本の俳優が中国でも人気があったりするので、日本のコンテンツも自信をもって中国へ発信すればいいし、中国のコンテンツももっと日本で見たい。

(聞き手・北澤竜英、伊藤洋平/2019年7月取材)

 

(*)…漫画やアニメ、ゲームなどを原作・原案とした舞台芸術(主にミュージカル形式)の一つ

 

★2019年10月25日より大阪・東京で、12月には中国でも舞台「NARUTO」の再演が決定しました!