2018年10月23日、香港と広東省珠海市、マカオ(澳門)を結ぶ世紀の一大プロジェクト「港珠澳大橋」が開通した。海上を走る絶景バスで、所要時間は約40分。香港と両都市の距離がぐっと縮まっただけではなく、バス旅自体を目当てに多くの人が押し寄せている。開通まもない11月29日、珠海側から香港をめざした。(内海達志、写真も)
話題沸騰の世界最長の海上橋
香港初となる高速鉄道の開業からちょうど1カ月。またまた喜ばしいニュースで香港が注目された。香港と珠海、マカオを結ぶ「港珠澳大橋」が華々しく開通したのだ。全長約55キロ。1千億元もの巨費を投じ、9年をかけて建設された壮大なプロジェクトで、海上橋としては世界最長を誇る。ちなみに、これまでの世界最長記録は山東省の「膠州湾大橋」だった。
スタートは珠海駅。隣接する拱北口岸(イミグレーション)から徒歩でマカオの關門口岸へ向かう人の波を横目に、駅前に待機しているバスに乗り、港珠澳大橋珠海公路口岸へ向かう。おそらく初めて大橋を体験する人がほとんどで、男の子が母親に「いつ橋に着くの? どんなすごい橋なの?」と目を輝かせながら質問する様子が微笑ましかった。
真新しい口岸には、平日にもかかわらず人があふれており、週末は想像を絶する大混雑となるに違いない。香港行きのバスチケットを購入する。運賃は58元(1元=約17円)。相応の香港ドル払いも可能だ。
バスは10~15分間隔で24時間運行している。パスポートに押された「港珠澳大橋」の文字が新鮮だ。香港とマカオはスタンプを省略しているため、パスポートには何も残らない。
乗車したのは2階建てバス。「特等席」の上階最前列を確保したグループは嬉しそうな表情を浮かべていた。発車するとほどなく大海原の絶景が広がり、乗客が一斉にカメラを向け、あちこちで歓声が上がる。視界を遮る人工物が少なく、まさに海上を走っているようだった。
香港空港から便利なアクセス
視界が良好なのは、通行量が少ないせいもある。現状、特別な許可を得た車両以外は、乗り入れが禁止されているのだ。テロ対策もあるのだろうが、許可を得るためのライセンス条件は非常に厳しく、当面は〝渋滞知らず〟が続くものと思われる。片側3車線の快適な道をバスは独占状態で走行するわけで、58元ならば「観光バス」以上のコストパフォーマンスだと思う。
香港には大小235もの島があり、変化に富んだ車窓を楽しめるのもバス旅の魅力といえる。島の間を巨大な艦船や小さな漁船が行き交う風景は、いかにも香港らしい。
全長55キロのうち、海底トンネル区間が7キロある。これは大型船舶航行の便宜を図るためという。トンネルを抜けると、やがてランタオ島がみえてくる。進行方向右手に、大人気スポットの全長5・7キロのゴンピン(昂坪)ケーブルカー、左手には広大な香港国際空港が。たくさんの機体がズラリと並ぶさまは圧巻だ。
約40分で香港側の口岸に到着。空港は目と鼻の先の距離なので、空路と組み合わせてスケジュールを立てるといいだろう。市内中心部と空港を結ぶ一部のバスが、口岸を経由している。
「港珠澳大橋」の経済効果は観光面だけではない。これまで珠海地区から車を利用して香港へ出るには、約4時間を要していた。大橋の開通によって40分に大幅短縮されたのだから、特に物流面におけるメリットは非常に大きい。
香港―マカオの新たな大動脈
香港では市内に向かわず、マカオ行きのバスに乗車した。香港ドルの料金は65ドル(1香港ドル=約14円)。運よく最前列が空いていたので、運転手気分でワイドな眺望を満喫することができた。
終点が近づくと、右車線は珠海へ、左車線はマカオへと二手に分かれる。二つの口岸は隣接しているが、このルートを往来する人は多くない。いずれも人工島に建てられた橋専用の口岸だからだ。
一方、香港―マカオのアクセスは、24時間運航の高速フェリーが有名だが、所要時間は約1時間、料金は150香港ドル前後なので、コスパの比較では大橋に軍配が上がる。ただ、香港、マカオとも、大橋の口岸は中心部からは遠いのが難点なのだが。
マカオの口岸からは2つの路線バスが出ており、「101X」のほうはセナド広場など観光スポットまで運んでくれる。空港に用がなければ、片道はフェリーを利用したほうが時間を有効に使える。
マカオから香港へのバスでは、燃えるような夕日が空と海をオレンジ色に染めていた。次回はどこからか優美な橋のシルエットを眺めてみたい。
2019年は「日本香港観光年」。グレートベイエリアに誕生した新しいランドマークを通って、香港、マカオ、そして珠海、広州など華南を訪れてみてはいかがだろうか。