「青文字」の話から
生花の先生をしている知人が、WeChatのモーメンツ上で自分の作品をアップしている。いつも楽しく鑑賞している。この間、ある作品が公開されたが、花材に使った花はなんと青文字というものだった。
花には疎い自分なので、青文字っていう花はなんなのか分からず、まず『日中辞典』を調べてみたのだが、見つからず、日本語の辞書『大辞林』を調べてみても、見つからない。さらに『広辞苑』(第六版)でも見つからなかった。仕方なく、ネット辞書で調べてみた。
今はネットがあるから便利なもので、普段、何か日中翻訳で調べたい場合、ほとんどネットを使っている。まず日本語の単語などを入力し、さらに「中国語」と入力した後、エンターキーを叩けば、普通の言葉なら大体それなりの中国語訳が出てくる。我ながら重宝している。
しかし、同じ方法で「青文字」と入力し、さらに「中国語」と入力してみたところ、出てきたのは、字面の意味、つまり「青い文字」の中国語〝蓝色字母〟だった。これでは訳が分からない。
そこで、中国語訳の検索をやめて、ただの「青文字」で検索したら、植物名としての青文字が出てきた。ネット上の説明によると、3月~4月に小さな白い花が開花するクスノキ科の落葉小高木。花言葉は「友人が多い」。同じクスノキ科のクロモジの樹皮は黒いのに対して、青みを帯びているのが名前の由来。また、開花時期がちょうど卒業式のころの3月に咲き誇ることにちなみ、地域によっては「卒業花」という名前で呼ばれるとか。この3月にぴったりの花なのであろう。
中国語名は〝山鸡椒〟
一方、ネット上の説明で、中国語名は〝山鸡椒〟または〝山胡椒〟ということが分かった。〝山鸡椒〟も〝山胡椒〟も〝椒〟という文字があるから、山椒か胡椒のようなものであることが分かる。つまり、一応山椒や胡椒などの名前にちなみ、命名していることが伺える。〝山胡椒〟は別として、〝山鸡椒〟のような名前は、〝山鸡(鶏)〟という言葉を使っている。〝山鸡〟とは中国語では〝野鸡〟とも言われ、雉のことである。考えてみれば、〝山鸡〟は鶏より、体はやや小さいながら、長い尾を持っている。青文字の実を見ていると、長い柄を持ったその形は、いかにも〝山鸡椒〟のイメージにぴったりではなかろうか。
それにしても、なぜ青文字が名前になったのだろうか。黒文字という比較があることから、黒文字にその源を見極めなければならない。要するに、黒文字の若枝の表面に黒い藻類が付着していて、黄緑色の地色に黒いまだら模様の斑紋が入るため、それを文字に見立てたものといわれる。青文字には、その模様があるかどうか定かではないが、名前がそこから来たのは間違いない。枝にある模様を文字と見立て、それを木の名前にしたというのは、ユニークではないだろうか。
中国語では木の実の形から命名されているようだが、日本語では枝の模様によって命名されている。世界を観察する人間のまなざしに異同があることは、非常に興味深いことである。
(しょく・さんぎ 東洋大学元教授)