“九月九”って、何?

2024年9月1日号 /

重陽の節句にまつわる話

日本に留学に来ている中国人学生に、9月に行われる伝統行事は何かと聞いたら、何もないという。「九月九は?」と日にちのヒントを出してもやはり分からないという。

田舎では、子供のころ、次のような話はよく聞かされていた。ある舅がお嫁さんに、「韮を刈って来て、酒を汲んで来て、明日は九月九、九(番目)叔父さんに酒を飲みに来るように伝えて」と。この中の「韮」、「酒」など、すべて「九」jiuと同じ発音である。これを聞いた嫁さんは、九叔父に伝えに行くが、目上の人には、その名前や呼び名と同音の言葉を口にしてはいけないので、頓知の嫁さんは、次のような言葉で九叔父に伝えた。「義父さんから、根のない野菜を刈って来た、客を留める飲み物を汲んだ、明日は重陽節なので、四双半叔父さんに、客を留める飲み物を飲みにいらっしゃって、って言っている」と。この話の中の「根のない野菜」は韮、客を留める飲み物云々は酒で、九月九の代わりに「重陽節」を使い、そして「四双半」つまり「九」で、結局「九」という発音をせずに、義父の誘いを九叔父に伝えられたのだった。田舎では、「九月九」は即ち「重陽節」で、お年寄りの方は親戚のお年寄りを呼んでお酒の宴を催すという昔からの伝統であった。

この伝統は田舎ではまだ盛んだったが、都会ではあまり行事がなく、大分忘れられていたものであった。それが、2006年になって中国の国務院で国の「非物質文化遺産」(無形文化財)に登録され、そして、2012年に全国人民大会で「老年節」(老人の日)と定められたのである。

日本の重陽の節句

中国の重陽節は、日本では普通「重陽の節句」と言う。中国の重陽節は旧暦の9月9日に行われるが、同じく旧暦で行われていた日本では、新暦の実施によって、旧暦ではなく新暦の9月に行われるようになった。したがって、中国より1月ぐらい早めになるが、日本でも重宝されている行事である。

旧暦だと季節的には秋の後半にもなり、菊の花が盛んに咲き誇るようになる。中国の重陽節には、昔、高いところに登ったり、「茱萸」という植物をつけたりすると同時に、ちょうど菊の咲き誇る季節にあたるので、菊を観賞したり、菊を入れた食べ物や飲み物を口にしたりしてもいた。その菊に関する伝統が日本でも受け継がれて、重陽の節句が「菊の節句」とも言われ、この日に菊の香りを移した酒を飲んだり、旬のものの栗ご飯を食べたりして、無病息災や不老長寿を祈っている。

若い人には、重陽節が縁遠い存在かもしれない。新暦の9月はまだ菊の咲く季節には早いので、満開の菊を見ることができない。それでも、お年寄りを大切にという古い伝統は大切に保ち続けたいものである。

(しょく・さんぎ 東洋大学元教授)