「霊」の元々の意味は「巫女」だった

2024年8月1日号 /

「霊」と“灵”

昨年8月号では〝灵活〟「霊活」について述べた。先祖の霊を迎えるお盆の時節にあたり、今度は日中の「霊」と〝灵〟 について述べてみたい。

現代日本語の「霊」は、意味的には割と単純で、『広辞苑』では、その基本義を「肉体に宿り、または肉体を離れて存在すると考えられる精神的実体。たましい」と説明したうえ、次のような用例を挙げている。「霊魂、霊肉、幽霊、霊前」。日本語では、似た表現に「魂」というのがあり、さらに2字熟語の「霊魂」がある。使い方には違いがあるものの、意味的にはほとんど同じである。

日本の言語生活の面では、「霊」ということとなると、先祖の「霊」という話もあるが、普通、「幽霊」という話がよく出る。どこそこに「幽霊」が出没する「幽霊屋敷」の話はテレビ番組を賑わしているし、社会的には、例えば、学会などに、普段学会の活動には参加せず、名ばかりの「幽霊会員」なども存在する。一方、「霊」は派生的に「不思議な力を持つ、尊い」意味での使い方があり、例えば、「霊峰」富士山のような使い方などである。

中国語の“灵”

一方、中国語としての〝灵(靈)〟は、現代中国語では、昨年8月号で述べた意味以外、日本語とほとんど同じで、似た言葉には〝魂〟もあり、そして 〝灵魂〟「霊魂」という言葉もある。

しかし、〝灵〟という言葉の元々の意味をたどってみれば、中国の辞書《辞海》では、その第1義に、〝古时楚人称跳舞降神的巫〟「古の楚の国の人が踊りをして神を降ろす巫女のことを指して言った」と説明している。なんと、〝灵〟は元々「巫女」という意味であった。

〝灵(靈)〟という字の元の形は、「雨」の下に、麻雀のパイみたいな四角形が横に3つ並んでおり、それらは雨だれを意味していた。後に、その下にさらに「亀」や「龍」、「王」の字を使ったり、「弓」の字を3つ並べたりして、最後に「巫女」を意味する「巫」という字を使うというようになっている。現代日本語の「霊」という文字は、下に「亚」みたいな文字が使われているが、実は元々は「靈」と書き、中国語の繁体字と同じで、下は「巫」となっている。

最初、〝灵〟は実は「雨」そのもので示されていて、3つの雨だれが付いたものも天から地上に降ってくるものという意味で、天から人間界に何かの兆しを示すものとされていた。その後、いろいろな文字を使ったようだが、いずれも天と地のコミュニケーションを担う意味である。それは「巫女」が一番ふさわしい役割であった。「巫」の作りの「工」もその意味を伝えているものである。

日本語の「霊」も、中国語の簡体字も、「霊」の元の意味は伝わらないようだが、「霊験」「霊薬」そして「霊峰」などの使い方の中に、その不思議な力の意味がまだ受け継がれているようである。

(しょく・さんぎ 東洋大学元教授)