日本語の訓読みと音読みの違い

2024年7月1日号 /

「色紙」の話

中国では、色紙を使うことがよくある。特に伝統文化の中の“剪纸”(切り紙)では、いろいろな色紙を使って、いろいろな形のものにして、人々を楽しませている。

初めて日本へ留学に来たその年の七夕の時のことだった。担任の日本人の先生が色紙を持ってきて、折り鶴の折り方を教えてくれた。子供の時から手芸が下手で、折り紙なども教わったもののうまくできず、今でも鶴は折れない。

それは別として、その時に持ってきた紙を先生は「折り紙」と言っていた。私たちの頭の中ではそれは色とりどりの綺麗な紙で、中国語では普通“彩纸”というものであるので、これは「色の紙」ではないかと尋ねたら、そうですね、「色紙」ですという回答だった。色紙には、赤紙のように赤い色の紙に違いないが、特別なニュアンスがあったものは別として、普通は、大体、赤、青、黄、ピンクなど色の名前だけで言い分けられている。子供たちは幼稚園から色紙で図画工作をやり、大人になってからも七夕などには折り鶴をしてお祝いする。今や店では、(色紙と言っても問題ないが)折り紙専門のコーナーもあるくらい、日本では折り紙が一つの文化産業となっているようである。

音読みの「色紙」

色紙いろがみ」は訓読みで、意味は字面そのままで分かりやすかったが、そのうちに留学が終了し、中国へ帰国することになったら、日本の友人が「色紙」をくれると言った。最初に「しきし」と聞いた時には、何のことか分からなかった。「『しきし』って何ですか」と聞いたら、「色紙」と漢字で書いてくれた。「色紙」か、どんなものになるだろうと考えを巡らした。中国では、例えば大学に合格して田舎を出ようとした時に、友達などが赤い紙に「祝賀」などと書いて見送りをするといったことがある。それを期待していたら、全然違ったものを持ってきたのである。見ると、四角くて、ちょっと厚みのある紙の板みたいなものに、いろいろな贈る言葉が書かれていた。これが「しきし」?

話を端折るが、中国では「色紙」の文化はない。中国語で説明しようとしても中々うまくできない。“斗方”(中国の紙の形の一種、方形で春節などに、めでたい文言を書いて家屋の扉に貼ったりするもの)状の紙と説明されたり、辞書では“方形美术纸笺〟(方形美術紙箋)と説明されたりしている。しかし、どちらも原意は伝わらないと思う。“斗方”はいい発想ではあるが、中国文化が連想され、“纸笺”はただの紙という点ではイメージが伝わらない。「色紙」の文字を用いた“色纸板”か、“斗方状美术硬纸板”なら少しはイメージが伝わるかもしれない。

発音もそうだが、文化の異同には興味をそそられるものである。

(しょく・さんぎ 東洋大学元教授)