左右も上下ありか?

2024年4月1日号 /

日中の左と右

雛祭りも過ぎ、雛壇とも早くに別れを告げたが、今回は雛壇のことにちなんで、日中の左と右のことについてお話ししよう。

雛壇に並ぶ雛は、京都を中心に関西の一部の地方では、向かって右側が男雛、左側が女雛が主流だが、関東地方などでは、向かって左側が男雛、右側が女雛が主流となっているようである。向かっての左、右とは、座る本人から言えば、逆に右、左である。つまり、京都式の場合、男雛が左で、その右手に女雛が座る。女雛にしてはその左手に男雛が座ることになる。古代中国、ことに周以前は左を尊ぶ(尚左)ということだった。だとすれば、京都式では、左手に座る男雛が地位が上ということになる。雛人形は、天皇をモデルにしているとの説もあるようだから、左手に男雛が座るという京都式は古代の制度に合致していることがわかる。

しかし、中国では時代の変化に伴って、左と右の地位が逆転したりする。周は左を尊んでいたが、戦国時代、秦、漢などになれば、右を尊ぶ(尚右)ようになる。『史記・廉頗藺相如列伝』では、戦国時代の趙という国の武将・廉頗と文官・藺相如のことが書かれているが、藺相如が上卿となれば、“位在廉颇之右”(位は廉頗の右にある)とあるように、右の方が上ということになる。その後、六朝、唐、宋にはまた左を尊ぶようになり、元は変わって右を尊び、そして明、清は左を尊ぶと言われているように、左と右の上下も移動的である。

関東地方などで行われている雛人形の座り方のように、向かって左側が男雛、右側が女雛となっている。これは西洋式のルールに従っているという説もあるようだが、右を尊ぶということからきていると考えられる。

現実の左と右の使い方

雛壇のことはさることながら、現実の社会におけるこの左と右の使い方にはやはり微妙に違いがある。

現代中国語には“无出其右”という四字成語がある。これは『史記』の“毋能出其右者”に出典を求めることができるが、その日本語訳の「右に出る者がない」も日本語の慣用語となっている。つまり我々の言語生活では、両国共通で、右が上であることになる。

しかし、実際の社会生活では、日本では特に左と右に関しては言わないかもしれないが、中国では、並んで座る際、やはり“左为上”「左為上」、つまり左を尊ぶと言って左手に上位者を座らせるのが礼儀である。田舎では、結婚披露宴などでは時々互いに席を譲り合って、なかなか座れない場面に出会うことがある。それはお互いに左の方に相手を座らせようとしているのである。

左と右は位置方向以外に、上下などを指すこともあり、言葉の使い方には無限の醍醐味がある。

(しょく・さんぎ 東洋大学元教授)