“猫”と“宅”でお正月を?

2023年1月1日号 /

中国語の名詞動詞化の例

お正月になった。昨年はコロナ禍で外出の自粛を求められていた。それでも多くの人がマスク、消毒などを入念に実施し、初詣に出かけた。人出はコロナ前の年とは比べものにならないほど少なかったようだったが、今年は特に自粛は求められていないようなので、寺院などを久しぶりに賑わわせてくれるだろう。

一方、やはりいつの時代でも家にこもってお正月を過ごす方もいるに違いない。ひと昔前はやっていた言葉に「寝正月」があった。お正月という賑やかな時期でも、外出せずに家でごろごろして過ごすことである。「寝正月」は正月に関する言葉だが、コロナ禍のため、この頃「巣ごもり」という言葉が一般的な表現になっているようである。

「寝正月」も「巣ごもり」も、基本的には「寝る」「こもる」など動詞でそのことを言い表している。しかし、中国では「こもる」を表すのに名詞を用いるという新しい使い方ができている。

“宅”は「宅る」へ

まず、“宅”について。これは「家」の意味で、古典語では動詞としての用法もあったが、普通の使い方ではなかった。しかし、日本語の「おタク」という言葉が台湾、中国大陸へ伝わると、“宅男”“宅女”という使い方ができた。ここでの“宅”は最初は「おタクのような」といった意味だったが、次第に「家にこもる」という意味に変わり、今やまったく「こもる」という意味になり切ったようである。すなわち、“宅男”は「こもる男」という意味である。そして“宅”が進化し、最初は“宅家”「家にこもる」と言っていたが、“宅”の後ろに続くのは“家”だけでなく、“宅影院”「映画館にこもる」、さらに“宅春节”「宅春節」、“宅新年”「宅新年」のような使い方ができ、もはや日本語の「寝正月」に近い構造になっている。

“猫”は「猫る」へ

近年、「こもる」の意味で、もう1つ新しい言葉が生まれた。“猫”である。“猫”は昔から動詞として使われ、日本語の「猫背」の発想と同じく、猫のように背を屈めることを“猫腰”という。それが、猫がいつも部屋のどこかで寝ている様子を、人間が家にこもることの形容に使うようになり、“猫家”「家にこもる」といった言い方が生まれた。“宅”に比べて使う範囲はまだ狭いが、いくらか可愛さが感じられるのか、若い人たちに愛用されている。

ということで、“猫”と“宅”でお正月を過ごされる方もいるだろう。が、新年に当たって、やはり家にこもらず、思い切ってどこかへ出かけたいものである。

(しょく・さんぎ 東洋大学元教授)