家族団欒か長寿祝いか

2022年9月1日号 /

重陽の節句の話

「重陽の節句」は、日本では「五節句」の一つで、「菊の節句」ともいわれ、元々中国から伝わり、旧暦の9月9日に行われる行事だったが、今は公暦の9月9日に変わっている。

古代中国では、「九」は陽の数(奇数)で、9月9日は陽の数が重なることから重陽という。この日は、家族などで高いところに登り、無病息災を祈る習慣があった。

唐の有名な詩人王維には「9月9日憶山東兄弟」(9月9日、山東の兄弟を憶う)という詩があり、「独在異郷為異客」(独り異郷に在りて異客と為り)と、自分だけ流浪の身だと言い、杜甫にも「九日」という詩の中で、「重陽独酌杯中酒」(重陽独り酌む杯中の酒)と、重陽の日に一人ぼっちでいることを訴えている。それほど古人は9月9日は家族団欒の日と考えていた。

王維の詩には「遍插茱萸少一人」(遍く茱萸を插して一人を少く)という句があり、「插茱萸」という風習があったことを示し、杜甫の詩には「竹葉於人既無分、菊花従此不須開」(竹葉人に於いては既に分無し、菊花此れより開くを須いず――みんなが飲む美酒の竹葉は自分とは関係なく、菊も自分は見られないから咲く必要はない)という句があり、「竹葉」(美酒の名称)と「菊花」、つまり酒を飲み菊を観賞するといった行事のことを言っている。

現代の重陽の節句

王維の詩にある茱萸という植物は、邪気などを払う効き目があるということで「避邪翁」(厄除けの翁)と呼ばれ、当時の人々は体につけたり「茱萸嚢」を作って携帯したりして無病息災を祈った。しかし、茱萸はどちらかと言えば南方の植物で北方では手に入れにくいからか、宋元以降は廃れていき、代わりに「延寿客」(長寿をもたらす客)と言われる菊が珍重され、9月9日には菊の酒を飲んだり、菊の花を観賞したりする風習が盛んになっていった。

9は数の中では最大で、9月9日=九九の81は、昔は手を伸ばそうにもなかなか届かない年齢だった。それで、この日は長寿祝いの日ともされる。田舎では、祖父がお友達を招き、お酒を飲み歓談をした記憶がある。2012年に中国ではこの日を「老年節」(老人デー)と定め、今や全国的に老人の幸せな老後を祝う祝日となっている。

旧暦の「重陽の節句」は、本年は10月4日となる。日本ではこのころ、邪気を払い長命を願うというモットーの菊の観賞会などが行われるだろう。近所には菊の愛好家がいて、早くから庭先で花の手入れをしている。毎年この季節になれば、いつもその家の前を通るのが楽しみだ。今年もどんな花が咲くか、首を長くして待っている。

(しょく・さんぎ 東洋大学元教授)