“茶碗”、“茶杯”そして……
新茶の季節になった。今回は中国人が何でお茶を飲むかについてお話ししよう。
お茶を飲むときに用いる器はいろいろな種類があるが、中国人は、茶館などでもそうだが、家でも“茶碗”を使った。中国語で言う“茶碗”は日本語の「飯茶碗」のような意味はなく、お茶を飲むときに使うお碗である。普通、蓋が付いている(それで、“盖碗儿”「蓋つき茶碗」ともいう)。まず茶葉を入れ、お湯を注ぎ、蓋をしてしばらく待つ。芳しい匂いが漂い始めたら、ゆっくり蓋を開けて、茶の湯を楽しむ。一人で飲むときはもちろん、お客さんをもてなすときなど、少し凝った茶の飲み方である。この飲み方では、茶葉が入っているので、茶葉が口に入る心配もあろう。でも、茶の香りが出たころには茶葉も沈んでいるので、心配はいらない。種類によって、茶葉が沈まない場合、蓋で簀のように茶葉をろ過すればよい。
北京では“大碗茶”が流行っていた
もともと“大碗”「どんぶり」でお茶を飲む“大碗茶”という風習があった。ほとんどただ渇きをいやすためだったが、それも長い間北京あたりでは消えていた。改革開放が始まった20世紀70年代末、今ほどサービス業が発達していなかった時代に、観光客に提供する目的で、北京の最もにぎやかな観光スポットの前門あたりで“大碗茶”が販売され始めた。1杯2分(1分は人民元の百分の一、当時の為替では1円にあたるか)で、観光客に大いにうけた。その事業を始めた会社は、今は大きな企業になっている。その代わり、生活の質の向上に伴い“大碗茶”は歴史の流れに消えてしまったようである。
一方、かなり長い間、私的にも公的にも、蓋と取っ手の両方がつく“茶杯”が用いられた。毎年3月、北京の人民大会堂で全人代(中国の議会)が開催される。その際、代表達が座る台には必ず茶葉の入った“茶杯”が置かれる。会議が始まる前、「服務員」(サービス係)が来て、お湯を注ぎ、蓋をする。代表達が会議中、そのお茶を飲み、適時に服務員が巡回に来て、お湯を足していく。これが全人代でよく見かける光景である。
時代が変わり、公私ともにお茶の飲み方は変わった。今は、特別な場以外は“茶碗”で飲むことは少なくなっている。ティーバッグやペットボトル入りのお茶が流行り、コップや湯飲みで済むようになったからなのだろう。
それでも、専門の茶館は別として、たまには2、3の友達と“茶碗”か“茶杯”に茶葉を入れ、お湯を注ぎ、蓋をして雑談をしながら時間がたつのを待ち、ゆっくりお茶を楽しめたらと思う。
(しょく・さんぎ 東洋大学元教授)