「五輪」は中国語で何という?

2022年2月1日号 /

「奥」と“奥”の意味

ウィチャットのモーメンツで、「奥」に関する投稿を読んだ。受け売りのきらいもあるが、この「奥」の話をしよう。

後漢末の辞書『釋名』には、すでに“奥”の字が載っていて、意味としては、室の西南隅である。室の西南隅は、明かりがなく、戸口から見ると深く入ったところなので、奥にある場所という意味が生まれ、“堂奥”(母屋の奥まったところ)という具体的な場所を意味する用法がある。そして、“奥”は古来先祖の位牌を設置する場所で、これがまた神秘的な雰囲気を醸し出す。このことから、「奥深い」という抽象的な意味に派生していき、“奥妙”(奥深く不思議である(こと))、“奥秘”(奥深い秘密)、“奥义”(奥義)及び“深奥”(奥深い)などの熟語が生まれている。

しかし、現代中国語になると、“奥”は1音節だけでは単語としては使われない。上記の熟語以外は、「奥深い」意味とは関係なく、主に音訳の漢字として、ほとんどが人名や地名といった固有名詞の訳音として使われる。頭文字として、誰もが知っているものに、国の名前としての“奥地利”(オーストリア)があり、ナチスドイツが作ったかの悪名高いアウシュビッツ強制収容所は、地名の部分が“奥斯维辛”となっている。さらに、オリンピック大会(五輪)は中国語では“奥林匹克运动会”(略して“奥运会”)である。なお、間もなく開幕される北京冬季オリンピック大会(北京冬季五輪)は、略して“北京冬奥会”というが、ここの“冬奥会”の“奥会”は「オリンピック大会」の更なる略である。

 

日本語における「奥」

日本語に入った「奥」という言葉は、中国語には無い使い方で大活躍している。まず、「引き出しの奥」のような、「中へ深く入った所」の意味の使い方があるし、「心の奥」のような抽象的な場所としての使い方もある。それから、小さい空間の一部という意味から、より広い意味での「都から遠いところ」を表す「奥州」や「奥の細道」のような使い方があり、文書や手紙などの終わりの部分を示す「奥書」という使い方もある。奥まった場所としての意味の単語に、江戸城に関する「中奥」、「大奥」という言い方があり、そして、大奥のようなところで起居する家の女性主人を「奥」で表すようになる。かつては、公家や大名などの身分の高い人の妻を敬って使われていた「奥さん」「奥様」は、現在、普通に他人の妻を敬って使われている。

“北京冬奥会”の成功を祈りつつ、奥が深い言葉の意味というものをこれからも究め続けていきたいものである。

(しょく・さんぎ 東洋大学元教授)