普通は「その場でチャージ」という意味
中国のSNSなどを見ると、“现充”「現充」という語にぶつかる。普通“现”という漢字は、動詞として使うと日本語の「現れる」と同じ意味である。名詞と一緒に使えば、例えば“现状”は「現在の状況」、つまり「現在」を意味し、“现金”などは「現在流通している」「今持っている」という「その場にある」という意味となる。さらに動詞と組み合わせた“现买现卖”という語があるが、この“现”は副詞的な「その場で」を意味し、四字熟語全体は字面では、その場で買い、その場で売るという意味であり、熟語全体の抽象的な意味は、日本語の「受け売り」と同じである。
そして“充”という漢字の意味は、日本語では「充実」「充足」「充分」の「充」と同じである。「充足」などは「満ちている」となり、形容詞的な意味である。これに対して「補充」みたいな言葉は、「満たす」を意味する。「充電」は、『岩波国語辞典』では小見出しとして、「蓄電池・蓄電器に外部の電源から電流を流して、電気をたくわえること」と正しく説明されているが、「充」という漢字について説明する際は、「中身がいっぱいある」という意味項目の中で「充電」を挙げている。これは間違っている。「補充」などと同様に「足りないところをいっぱいにする」「みたす」のように説明すればいい。意味用法では中国語の“充”も同じである。
そう考えれば、〝现充〝现充〟は「その場でみたす」のような意味でも問題はないだろう。現に日本語の「お金をチャージする」は中国語では“充值”と言うので、「その場で100元チャージする」という意味の中国語は〝现充100元〟となる。
日本語は「リア充」
しかし、SNSなどの〝现充〟は全然こういう文脈での使い方ではなく、あまりいい意味で使われないようである。例えば“现充去死!”という用法は、上記の意味では全く理解できない。“现充”は日本語の若者用語の「リア充」からとったもので、「リア充死ね!」などと使われている。現代の若者の生活様式の表れだろうか、ネット上で流行している勢いがある。意味は別として、この“现充”という語のおかげで、中国語の“现”という語には、「現実で充実している」という「現実で」という新しい意味用法が取り入れられている。
日本生まれの流行語がどんどん中国語に受け入れられているようだが、どれくらいの生命力があるのか、見届けたい。
(しょく・さんぎ 東洋大学教授)