「盃」と“酒盅”

2019年4月1日号 /

「一杯一杯復一杯」の酒は何を使って飲まれた?

前号(3月1日号)で酒の話をしたが、今回は酒を飲む時に使う器具について考えてみたい。

李白が「一杯一杯復一杯」と酒を楽しんだ際、どんな器具を使ったのだろう。現代中国では、白酒を飲む時、正式な宴会場では大体盃(さかずき、「盃」は「杯」の異体字)を用い、北京などで外国人の賓客をもてなす時、白酒は普通、ガラス製のグラスで飲む。現在は口がやや広く逆台形の“白酒杯”が一般的に使われるようになったが、昔は口のやや広い、ミニ型のワイングラスみたいなもので、“酒盅”とも言われた。1972年、中日国交正常化時に人民大会堂で周恩来総理と田中角栄総理大臣が交わした盃は、このような形をしていた。一般家庭では陶磁器のものも使われた。

唐の詩人王翰の詩に出てくる「夜光杯」が、上記のミニワイングラスの形の“酒盅”かどうか分からない。中国旅行をしたことがあれば、シルクロード地域で生産される、玉の一種で作られた「夜光杯」がこうした形をとるものが多い。しかし、もし王翰が葡萄酒・ワインを飲んでいたなら、今の“酒盅”はあまりにも小さいだろう。

唐の時代の酒器は「夜光杯」の「杯」をはじめ、李白の詩にあるような「金樽」の「樽」や、「玉碗」の「碗」そして「金叵羅」の「叵羅」(ポロ、外来語と考えられるが、口が大きく平たいもの)などがあり、白楽天の詩には「盞」というのがあった。「樽」や「盞」は日本語読みではいずれも「さかずき」である。

日本の「盃」

日本に来て、日本酒の飲み方も少しずつ覚えた。日本酒を飲む時にはお猪口を使う。お猪口(ちょこ)も口がやや広いものがあるが、上下がほとんど同じで筒状のものもある。また、ぐい飲みもあるが、サイズの違いだといわれる。以前、銀座のある店で日本酒を頼むとコップを出された。日本酒はコップで飲むこともある。コップ酒という用語があるぐらいだが、酒を飲む時は、盃でまず間違いないだろう。

最も驚いたのは結婚式に出た時のことである。使われた盃は口が広くて、非常に平べったいもので、飲む時に、こぼすのではないかととても心配した。中国では見たことがなく、これが「盃」と教えられた時は、正直非常にびっくりした。

李白の時は「碗」を使ったかもしれないが、現代ではワインやビールは別として、白酒や日本酒を飲む時は、中国人も日本人も「盃」を使う。しかしその「盃」の違いに、両国の文化の違いが潜んでいる。

(しょく・さんぎ 東洋大学教授)