雷をつかさどる竜が目覚め、天に昇る日
日本の2月は中国の旧暦1月に当たる。今年の旧正月(春節)は2月5日なので、中国ではちょうど数億人が大移動する帰省ラッシュで賑わう時期だろう。
2月は1年で行事が一番少ないとも言われるが、それでも“二月二”「2月2日」は古くからの伝統行事として、少なくとも、農村では結構盛んに祝われていた。中国にいた時、大体立冬を過ぎると雷が収まり、2月2日あたりに再び雷が鳴ると言われていた。確かに田舎でも北京でも冬の雷は聞いたことはなかったが、日本に来て冬でも雷の予報を結構耳にし、驚いた記憶がある。言うまでもなく、日本海沿岸に集中しているようである。
「竜台頭」と言われる
“二月二”は24節気の「立春」や「雨水」「啓蟄」などの節気の間にある。冬から暖かい春になるため、民間伝説では、冬眠していた竜が目を覚まし、天へ昇っていくと言われる。雷をつかさどる竜が目覚め、天に昇るのにちなみ、この日は“龙抬头”「竜台頭」(竜が頭を挙げる)と言われるようになった。中国では旧正月の「元宵節」にも「竜舞」や「竜灯舞」を行うが、これらはむしろこの竜台頭の“二月二”に本格的に行われた。
“二月二”にはまた散髪という風習がある。昔、髪を剃るということは一大事で、正月の間は髪を剃らないという慣習もあった。というより、人々は大晦日までには頭をきれいに整えていたので、2月に入ると髪を剃る時期になる。そして、この竜台頭の日にめでたく「竜頭を剃る」ことで、縁起を担いだ。
元々1月には、元日、5日の「破五の日」そして15日の元宵節など多くの祝日が続き、いろいろとおいしいものを食べられた。しかしその後の半月は祝日がなく、旧正月の間に蓄積された脂分はほとんど消えて行った。どうしてもおいしいものにありつきたい。そしてこの“二月二”が来る。田舎ではまず麺を食べる。麺は竜のひげにちなんだ竜須麺である。また、この日には「蠍(さそり)のしっぽをかじる」として、お正月に大切に取っておいた“麻花”(日本の「索餅(さくべい)」というものに非常に似た食べ物で、蠍のしっぽに非常に似ている)を食べ、1年の無病息災を祈る。このあたりから気候も暖かくなり、虫たちが出てくるので、子供が一番怖がる蠍を退治しようという風習であった。
温暖化に伴い“二月二”はもっと暖かくなるだろう。落雷に気を付けつつも、古き良き伝統文化を保ちたいものである。
(しょく・さんぎ 東洋大学教授)