槐とアカシアの話

2021年6月1日号 /

花は鑑賞よりも薬用か食用

田舎育ちなので、小さいころから野原の草や花に興味があった。田舎では、春はあんずの花が先に咲き、その次に桃の花が開く。これらの木がない自宅では、少し遅れて咲くアカシアの花を楽しむ。そして、麦刈りが終わると槐の花が咲く。

アカシアは外来語で、日本語では「ハリエンジュ(針槐)」、中国語名も〝洋槐(树)〟というように、「洋」という字が付いているので、外国からのものであることが分かる。
母屋の窓の外にあるアカシアの木は育ちがよく、いつも青々としており、初夏になると朝早くからミツバチがたくさん来て、うるさいほど音を立てていた。

アカシアの花はピンクがかった白い色で、芳しい香りを漂わせ、遠くからでもそれを嗅ぐことができる。私たちは匂いよりも、その花の味を楽しんだ。生でも食べられるし、何よりも小麦粉を混ぜ蒸籠にかけて蒸した花の蒸し団子は、ほの甘い香りとともに、口に入った時のその芳しさが一段と舌を楽しませたものだった。

 

「南柯の夢」で知られる「槐」

一方、槐は中国原産の木で、ネット上では田舎の山西省運城市が原産地とされている。それは別として、古くから知られている。現在中国では、アカシアの〝洋槐〟に対して〝国槐〟というが、これにまつわる話はいろいろある。まず、「南柯の夢」という諺があるが、これは日本でよく知られる「邯鄲の枕/邯鄲の夢」に似たストーリーである。

さらに、槐にまつわる途方もない伝説がある。足の小指の爪が二つに割れている者なら、山西省洪洞県の「大槐樹」がルーツと言われていることだ。いつの時代か、大飢饉に見舞われ、全国に移民するという呼びかけに応えて、この大槐樹の下に集まった者が全国に散らばっていったという話である。

槐の花は白い色であまりぱっとしないが、これもミツバチの大好物のようで、これでできる蜂蜜は非常に栄養豊かで、多くの人に好かれている。田舎では蜂蜜よりも、槐の蕾が貴重な存在となっている。漢方薬では「槐米」といって重宝されるが、我々にとっては、澱粉でできた寒天みたいなゼリー状の食べ物、「涼粉」を料理するときの重要な薬味の1つである。「炒涼粉」にこれがないと、もう全然風味がないというほど大事である。

一昔前、『アカシアの大連』という書物を読んだことがある。アカシアも槐もどこか我々のノスタルジアの帰するところがあるのかもしれない。

(しょく・さんぎ 東洋大学元教授)