中日の「家」
2月は中国の旧正月“春节”(今年は2月12日)のある月で、中国の数十億といわれる人々が大移動をする時期である。近年、春節の大移動は観光なども入るが、以前は人々の目的は実家への帰省がほとんどだった。どこの国も民族も「家」を大事にしているが、中国人のような、春節の時期の帰省ラッシュは珍しいかもしれない。
「家」は、日本語も中国語も同じ漢字を書く。しかし、両者には決定的な相違がある。
まず、日本語の「家」は基本的に「居住用の建物」の意味。対して、中国語の“家”は「家庭」の意味で、建物を意味することはない。日本語の「家」を中国語で表現する際、まず“家”ではなく、“房子”のような「家屋」を意味する言葉を用いる。例えば日本語の「家を建てる」は中国語で言えば、“建房子”となる。
建物と関係する日本語の「家」は、特に「自宅、我が家」を指すこともある。それでもやはり「建物」の意味である。そして、日本語の「家」は「うち」とも読み、「うち」が意味する「自分に属する側(のもの)」ということから、「自分の家、また、家庭」という意味となる。それで「いえに帰る」も「うちに帰る」と言える。さらに「うち」が転じ、「家、家屋」の意味ともなり、「新しい家が建つ」ということができる。
中国語の「家」
中国語の“家”という語は古くからあり、様々な意味がある。例えば、“修身齐家”「修身斉家」という古語の中の“齐家”は「家庭を整え治めること」の意味で、昔から警句として語り継がれているが、この中の“家”は、具体的な建物ではなく、抽象的な「家庭」の意味であった。そして「家庭」から転じて、家庭のある「場所」という意味になり、その場所に帰ることが“回家”となる。これは日本語の「家に帰る」に通じる。
「家」が「内」と同じような意味になることが中国語の“家”も似ている。日本語の「家の人」のように、中国語にも“家里人”という言い方がある。
中日の「家」には意味や表現の異同があるものの、我々には「家」ほど深いノスタルジアを引き起こすものはない。今年の春節は、新型コロナ禍のためどれほどの人が例の大移動に加わるか分からないが、家庭の意味にしろ、家族が住む建物の意味にしろ、「家」が癒しを与えてくれることは永遠に変わらない。結局、帰省の時期になると、我々はやはり「家路につく」のである。
(しょく・さんぎ 東洋大学元教授)