「現地読み」か、日本語読みか
今、日本の大学には多くの中国人留学生がいる。自分もかつてはその一人で、最初の来日時、名前の読みを担任の先生に尋ねられ、大学で日本語を始めた時から「ぞく」さんと呼ばれていたので、それでいいと言った。
大学同期・留学1年先輩の金さんは、先生から「ジン」さんと呼ばれていたそうだ。彼は来日時、名前を自分で「きん」と言ったそうだが、先生に「中国語読み」を聞かれて発音したところ、「ジン」さんと呼ばれるようになったそうだ。人名・地名の「現地読み」と、日本語読みの問題である。
中国人の名前の読み方について前に書いたものがある(『日語知識』1993年)。主に中国人名の漢字をどう日本語読みに直すかについて述べている。というのも、もともと中国語としての漢字は日本に入って独自の発音を持つようになったので、日本語読みのルールに従わないと滅茶滅茶な読みになることが多くあったからだ。
「現地読み」とは、現在の中国語の標準語(普通話)の発音を真似た片仮名表記で、例えば毛沢東を「マオゾートン」と読んだものなどである。国際的には、朝鮮・韓国人の名前の読み方には変化のプロセスがあった。「金大中」から「キムデジュン」に変わった歴史である。ヨーロッパではJohnが「ヨハネ」なのか「ジョン」なのかとも共通している問題だ。
漢字の正しい読み方
「続」という漢字は「ぞく」、「ショク」という読み方があり、これは日本語の漢字の読み方の歴史的変遷のプロセスの中で起こった問題で、前者は「呉音」、後者は「漢音」だけの話である。少なくとも自分は、苗字の「続」を日本語で「シュ」、「シュイ」と読んでほしくないものである。
確かに日本人の名前の読み方にはあまりにも変則が多くて、日本人にさえ読めないことが多々ある。日本語を学ぶ我々は、最初から日本語としての漢字の読み方のルールを覚えて初めて正しい日本語の発音を身に付けられる。
人名の「一程」は「いてい」ではなく、最初の「一」を促音化して「いってい」と、「仁平」は「じんへい」ではなく、「平」を半濁音化して「じんぺい」とすべき。留学生の名前に振る読み仮名を目にしながら、留学生たちにも正しい読み方を身につけてもらいたいと思う一方、日本で留学生を扱う教育機関の教員方にも漢字の発音の基本を把握して、正しいことを留学生たちに伝えてもらいたいと考える。
(しょく・さんぎ 東洋大学教授)