中国で様々な呼び名があるツツジ

2020年7月1日号 /

ツツジの話

ちょっと時季外れの話になる。先月号に閑古鳥こと郭公、ホトトギスの話をした。ホトトギスは漢字表記では「杜鵑」となり、中国語でも杜鵑が通称名となっている。しかし、“杜鵑”は花の名前にも使われている。ツツジのことである。

山西省の田舎では、ツツジを見たことがなかった。北京で勉学していた時は、かの「文革」の最中で、“風花雪月”の花など小ブルジョアジー的なものは当時の大学生が口にすることはなかった。それとも男だからなのか知らなかった。日本に留学し、駒込駅のツツジが非常に有名だと知人に教えられて、初めてツツジという花がわかるようになった。

実はツツジの漢字表記「躑躅(てきちょく)」は、中国語で「彷徨う、徘徊する」という非常に難しい言葉である。躑躅という当て字を付けたのは、5~6世紀ごろ、羊がツツジの葉を食べて「躑躅して死ぬ」という記述により、「羊躑躅」の名が付いたことからのようである。

中国の正式名は杜鵑

ツツジはツツジ科ツツジ属の花で、「躑躅」は中国語としてはもう死語であって、今はほとんど“杜鵑”として知られている。また中国ではシャクナゲも“杜鵑”の中に入る。しかし、正式名“杜鵑”以外の呼び名も全国あっちこっちにある。

20世紀70年代、非常によく歌われた『山丹丹開花紅艶艶』(「燃え立つツツジ」となるか)。陝西省北部の黄土高原の伝統的な陝北民歌と隴東民歌から改編されたと言われ、自分も口ずさむように歌っているが、“山丹丹”は黄土高原の陝西省北部の山に咲く花の一つであること以外、具体的なことは何も知らなかった。

その頃、たまたま見た朝鮮戦争に関する映画に朝鮮民族が好きな「金達莱」という花の話が出た記憶はあるが、花のイメージはあまりなかった。

また同じく70年代に、中国を風靡した映画『閃閃的紅星』の主題歌に「嶺上にあまねく咲く映山紅」という歌詞があった。山一面に咲いた「映山紅」のシーンがあった。

のちに中日辞書を編纂することになり、これらの言葉を調べているうちに、別々の花ではなく、全部“杜鵑”であることが分かったのである。

ちなみに、日本語による中国の歌の紹介サイトに、上記の“山丹丹”を花の名前と理解せずに、「山赤々と」と副詞としているものもあった。物のそれぞれの言い方に、それぞれの文化的深みが込められているものである。

(しょく・さんぎ 東洋大学元教授)