紛らわしい「茶の花」、「椿」、「山茶花」
中国で出版される日本語誌では、日本の俳句の中訳を紹介する欄がある。時々、いい俳句がある。霜降の節気に際して、「茶の花」(お茶の木に咲く花)の季語を用いた俳句を挙げ、“茶花”と表記し、さらに“茶花”を“山茶花”と解説していた。「茶の花」は“茶花”となるしかないが、“茶花”を“山茶花”とするのにはいささか疑問を感じた。
というのも、中国語の“山茶花”は椿のことで、“茶花”と略すことがある。フランスの小説家・デュマの名作『椿姫』の中訳は《茶花女》となっていて、一応その関連性を教えてくれる。しかし、名前的には紛らわしいが、日本語にも「山茶花」という花があり、これは椿とは別の花である。椿も山茶花もツバキ科の植物で、花はとても似ていて、素人の目にはその違いが分からないものが多い。
基本的には、椿は花が落ちる時、花丸ごとポツンと落ちるが、山茶花は花弁1枚ずつ落ちていくのが特徴だと言われている。椿の花が首が落ちる様子を連想させるために、現在では入院中の人などのお見舞いにはタブー視されているほどである。が、日本人には一般的に好かれる花のようだ。一方、山茶花は日本人には少し疎いような気がする。それにその「花」の字を抜いた「山茶」が椿の漢名なのだから、一層ややこしい。
椿は“海石榴”だった!?
椿の中訳が“山茶花”なのは現在では問題ない。しかし昔、遠く隋の煬帝の詩に、“海榴”または“海石榴”という使い方があった。これが椿かどうか定説はないようだが、石榴の花は、花によっては丸ごと散るという特徴が似ている。なので、“海榴”や“海石榴”は海外からの花という意味で、椿の別名だったのだろう。一方、“山茶花”という名は定着している。
“今朝一朵堕阶前”
「今朝、1朶が階段の前に落ちる」という“山茶花”を詠んだ唐詩からも椿であることが分かる。
それでは、「山茶花」は中国語で何と言うのか…。普通は“茶梅”と言う。昔は“海红”とも言われた。
つまり、題の「茶の花」は他でもなく、茶の木に咲く花のことである。椿は冬から春、山茶花は冬、そして「茶の花」は晩秋から冬という花期でもその相違が分かる。「茶の花」の中訳は“茶花”であっても構わないが、“茶树花”または“茶之花”のように、“茶花”と違う表記にしたり、椿との違いをどこかで解説すれば中国人の読者に正しく伝わるだろう。
(しょく・さんぎ 東洋大学教授)