許楽③

光陰矢の如く、2024年があっという間に過ぎ去り、新たな年を迎えることとなりました。昨年中は皆様からの温かいご支援により、博士課程の学業に専念することができましたこと、心より感謝申し上げます。本年も引き続きご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願い申し上げます。

以下、秋学期以降の学業および生活面についてご報告させていただきます。

 

学業面

秋学期は主に博士論文の執筆に注力して参りました。

現在取り組んでいる研究は、中国改革開放初期における労働仲介・管理機構「労働服務公司」についての分析です。この組織は現代の日本人や中国人にとってはなじみの薄い存在かもしれませんが、1980年代、約20年ぶりに社会主義中国で顕在化した失業問題への対応において、重要な制度的基盤となりました。労働服務公司は、計画的な労働力配分に加え、職業紹介、職業訓練、企業支援など、市場メカニズムを取り入れた労働行政機能を担っていました。さらに、集団所有制企業の組織・運営という経済的機能も併せ持つ、計画経済から市場経済への移行期に特有の複合的な労働組織ネットワークであります。

この労働服務公司の形成過程を詳細に分析するため、夏期休暇中に中国上海市、厦門市、米国ロサンゼルスで収集した資料の整理・分析を進めてまいりました。その結果、中央政府の政策構想から地方レベルでの組織構造、さらには政策実施過程における各アクター間の利害関係まで、体系的に把握することができました。秋学期には複数の研究会で計4回の報告を行い、先生方から賜った貴重なご指導を基に、論文の精緻化に励んでおります。今回の研究は、扱う資料の範囲や分析対象となる組織構造、関係主体の面において、これまでの研究以上に複雑な様相を呈しています。自身の学識の不足を痛感すると同時に、1980年代の改革開放初期が、様々な思想・政策・利害が交錯する激動の時代であったことを改めて実感しております。

また、2024年の12月に、拙論文「中国における失業の消滅と現実−精簡政策の実施過程を中心に」が、学術誌『アジア経済』で掲載することができました。本論文は2022年から執筆を開始し、長期にわたる査読プロセスを経て掲載に至りました。この間、貴奨学金からのご支援のおかげで研究に専念することができ、大変有意義な経験となりました。心より感謝申し上げます。これからは、引き続き博論各章の精緻化を進み、博士論文の土台をしっかり築き上げ、執筆に励めたいと存じます。

 

生活面

秋学期以来は学業を中心とした生活を送っておりましたが、11月の三田祭期間中に台湾・台北市および金門島での資料調査の機会を得ることができました。初めての台湾訪問に際し、緊張と期待が入り混じる心持ちでした。台北市では、中央研究院近代史研究所档案館、国家図書館などの機構に訪問し、多くの近代史資料を集めることができました。資料収集の合間に、いろんな記念館、博物館などを巡り、夜市のグルメや大好きなミルクティーを楽しめました。

また、フィールドワークを兼ねて、故郷である厦門市に最も近い離島・金門島も訪問いたしました。金門島では様々な記念館や民俗村を巡り、冷戦時代の歴史的遺産と、福建省南部に由来する閩南地域の文化、民俗伝統が色濃く残る景観に触れることができました。幼少期から厦門側から眺めていた金門島を、今回初めて反対側から見ることができ、深い感慨を覚えました。現代政治を学ぶ者として歴史的遺産を間近で見学できたことは貴重な経験となりました。同時に、狭い海峡を挟んで暮らし、言語や伝統、文化を共有する一市民として、平和の尊さを改めて実感する機会ともなりました。

 

金門島から眺める廈門市