奨学金授与式では先生方から多くのご激励をいただき、誠にありがとうございました。アリアケジャパン奨学金のお陰をもちまして、経済的負担が大きく軽減され、博士論文の執筆に集中することができました。改めて御礼申し上げます。以下に、学業面および生活面の近況についてご報告いたします。
学業面
私は現在、計画経済期から市場経済期にかけての中国の失業対策をテーマに博士論文を執筆しております。今学期は博士論文の一章にあたる、「計画と市場の狭間:中国における労働服務公司の創設と構想」をタイトルとした論文を執筆しております。
1978年、上山下郷運動の収束により、文化大革命中に農村部に「下放」させられた知識青年らが都市部に帰還し、社会主義中国において失業問題が再び顕在化しました。この問題に対処するために、中国政府は、「労働服務公司」という新しい組織を設置するようになりました。労働服務公司は労働力の斡旋、職業訓練などの行政的機能だけでなく、集団所有制企業を組織、運営するという経済的機能を兼ね備えた行政機構兼企業組織でした。この労働服務公司の特殊性は、中国の労働体制における計画から市場への転換を捉える重要な切り口であると考えております。春学期において、私は1980年代初期の労働服務公司の設置をめぐる中央政府レベルの政策構想や論争の分析を行いました。さらに、労働服務公司という「イノベーション」の由来を、計画経済期の労働政策とその実態を踏まえて議論しました。これらの研究成果をまとめて、研究会で報告を行い、先生やゼミのみなさんのご指摘を踏まえて論文を執筆しました。今後は、地方レベルにおける労働服務公司の運営実態に迫るため、夏休みを利用して、日本内外の研究資料の調査をすすめる予定です。
また、最近の学術動向の把握や学術交流のため、学会や学術セミナーなどに積極的に参加しました。6月15〜16日にアジア政経学会春季大会に参加し、多くの研究者と交流することができました。また、6月26日には慶應義塾大学東アジア研究所で行われたセミナーに討論者として参加しました。同セミナーではスタンフォード大学のJoseph Torigian教授が自著『Prestige, Manipulation, and Coercion』について講演され、私はそれに対して現代中国政治を研究する大学院生の立場から討論を行いました。中国とソ連の政治史およびその比較研究について、先生方と詳細に議論することができ、大変勉強させていただきました。
生活面
4月初旬、私は姫路と神戸に旅行しました。私はまず姫路城を訪れ、その美しさに感動したと同時に、その荘厳さから醸し出された歴史と文化に魅了されました。特に、その白亜の壁と複雑な屋根の構造は、日本の城郭建築の精華を感じさせるものでした。
その後神戸にいきましたが、港町の開放的かつ穏やかな町並みと雰囲気に癒やされました。神戸市の生田神社を訪れた際、ちょうど地域の安全と繁栄を願う生田祭の式典に遭遇し、日本の氏神文化を肌で感じました。
神戸に滞在中には、神戸外国語大学にも訪問しました。中国語学科の先生や学生たちとも交流を行いました。非常勤講師として中国語を教えている私にとって学ぶことが多く、貴重な経験になりました。
論文の執筆に追われるなか、日本各地を旅することで、地域の文化、歴史について肌で感じ取る機会を得ており、いつも研究への活力をもらっていました。今後も、研究と生活のバランスをたもちながら、博士論文の執筆に励みたいと思います。