陳歓③

学習面

この3ヶ月間は、修士論文を仕上げて提出することが主なミッションでしたので、先週までは論文の執筆に没頭して、非常に充実した毎日を過ごしました。修士論文では、和辻哲郎のいう、儒教思想に類似している、人間共同体における人間の行為の規範についての分析を通じて、和辻の思想体系研究においてあまり問題とされていない儒教思想の受容にアプローチしてみました。結論では、第一に和辻が儒教思想の人間中心主義の立場に着目していることを明確にしました。第二に、和辻の理論において、本元の中国の儒教思想にある人間関係の非対称性が薄められた、という変容の特徴を把握しました。最後に和辻共同体論についての考察から、社会あっての個人が社会へ貢献することを人間の責務とした儒教思想が、全体性を優位におく和辻倫理学の成立を支持できることと、それ故、和辻は儒教的人倫観を共同体における個人の行為の理論的根拠とみなしたことの二点を指摘しました。

今のところ、博士後期課程の進学のために色々な準備に着手しております。博士後期課程では、和辻哲郎の思想体系についての研究を続ける予定です。和辻は人間のあり方と行為を現象学的に理解することを求めているため、それをより良く理解するためには、知覚の主体である身体に注目するフランスの哲学者であるメルロ=ポンティの現象学的分析が有用だと思います。修士論文では、儒教思想の受容を手がかりとして和辻共同体論における人間の行為の成立と意義を解明しました。博士課程進学後は、現象学的分析をも用いて、古今東西の思想を摂取したうえで構築された、近代西洋哲学における個人主義を乗り越えようとしている和辻の思想体系の構造をより明確に捉え直すことを目指します。

 

生活面

修士論文執筆のかたわら、同じコース所属の聖書研究をしている後輩とともに、上智大学で開催された聖書講座へ足を運んで、キリスト教に関する話をたくさん聞きました。宗教学の視点から人間の行為の善悪を分析するのは、専門外の自分にとって斬新でとても興味深かったです。また、気分転換として、11月末に落語が大好きな日本人の友達とともに落語を見に行きました。自分にとって落語は初体験でしたし、伝統的な演出の仕方と現代的なネタが有機的に統合された芸術を満喫できて、楽しかったです。

 

この一年間、日中友好協会アリアケジャパン奨学金のおかげで、物価高騰などの原因で経済的な困難が生じかなり大変な時期に、アルバイトの時間を増やさず、学業を優先することができましたので、再び感謝を申し上げます。また、今後ともこの奨学金の受賞を誇りとして、日本でしっかり学術研究を続け、人間関係のより良い構築を追究する社会哲学の力を生かして、日本と中国の文化・社会面の友好交流に貢献できるように頑張って行きたいと思います。

 

研究室で寄り添ってくれたつば九郎さん

上智大学のシンプルで格好いいゲート