陳歓①

この度、奨学生として採用していただいたおかげで、経済的な不安がだいぶ緩和され、アルバイトの時間を増やす必要はなくなり、学業により専念できるようになると同時に、余暇時間に自分の趣味を楽しむことができるようになりました。

学習面

今年の4月から修士二年生になり、修士論文執筆のために色々準備し始めました。

私の研究は日本思想史に名を残した和辻哲郎の個人と社会の関係についての独特な見解をめぐって、彼の思想体系における中国の儒教思想の受容を分析することです。古来より儒教思想などの中国思想は東洋思想の重要な一部分とされ、日本の文化・社会にも大きな影響を与えたように思われています。そのような背景もあり、和辻にとって、人倫を中心とする立場に立っていて実践道徳を重視する儒教思想と、人間を社会の一員である行為者として捉えている彼の人間観との関わり、およびその必然性が垣間見えると考えます。4月から、自分の研究テーマを中心に、指導教員と週1回の面談を行うことにより、修士論文執筆の準備が着々と進んでいます。まず、和辻の儒教解釈をよりよく把握するために、儒教思想を特に扱った『孔子』という著作をはじめ、和辻の原典を読み解きつつ、儒教思想が和辻自身の思想体系での意義・役割について検討します。また、研究主題の画定にあたっても、自己流で思考することよりも、先行研究を網羅的に概観し、解決が需要されるトピックを選択しました。そのため、原典をのみならず、先行研究をも踏まえて、現時点では、和辻自身の儒教解釈、和辻倫理学における儒教の意義、和辻の儒教把握と本来の儒教との相違、という三つの側面から分析を試みています。

修士論文執筆の準備と並行し、7月中旬には哲学若手研究者フォーラムで、和辻の社会哲学思想における儒教思想の受容を題にして発表し、全国の大学から集まってきた若手研究者たちと交流した経験は、人脈作りに役立つのみならず、異なる考え方を持っている人々と様々な意見を交換することも、私自身にとって大きな刺激になるとともに有意義でした。

他方、大学の専門講義・演習への参加や独学はもちろん、あらゆる学術交流の場に参加して知識の幅を広げてきました。時間的・体力的に可能な限り様々な研究会・セミナーの場に参加して自分の研究の隣接分野に関する見識を広げてきした。

6月から、公益財団法人東京都歴史文化財団が主催する特別カリキュラム――「アート&テクノロジーへの問い」――に参加しています。科学技術が発展しているとともに変化し続ける現代社会の中で、人間の生活のあらゆる面は極端な技術的環境にあります。毎回の講義で、それを主なトピックとし、AIなどといった新たな動向を前に、今後の人間・科学・芸術・哲学などの関係性を多様な視点から討論し、異なる世界観を持つ他者とともに、未来の社会を構築するために創造的発想力を生かしています。

7月上旬に一橋大学の脳科学研究センター(HIAS Brain Research Center)を見学しました。当日、脳機能計測分野での実験方法の整備や実験手法の開発関する説明会に参加した経験を通じ、人間の認知機能を研究する認知科学は、どのような形で、脳科学が対象とする個人の単位での人間のとらえ方と、社会を単位とする社会科学との懸け橋となるのかについての理解を深めました。また、当日の脳科学研究座談会に参加したことは、社会・文化的環境が行動や認知などに与える影響を研究する社会心理学分野にも触れた貴重な経験になりました。

夏休み中、修士論文執筆とともに、日本倫理学会などへの参加をも計画しています。数多くの研究者と実際に対話することで相互に刺激を与え合いつつ、より研究を発展させることを楽しみにしています。

生活面

今年4月から、所属大学の留学生日本語支援・交流室で、学内留学生の学生生活をサポートするチューター活動や、日本人学生と留学生に向けた交流会も行っているが、そうした活動の中で、異なる国で育てられて多様な価値観を持つ学生たちと異文化交流を行う機会に恵まれました。

また、勉学のかたわら絵画に打ち込み、芸術活動一般に対する強い関心を持っています。芸術活動を通じて、常に新たなものを挑戦的に創出することに歓びを見出すと同時に、芸術作品は作者によってよりもむしろ受け手によって成るということを学び、常に受け手を配慮しつつ創作する態度を会得しました。自分の研究活動においても芸術活動と同様、常に受け手に刺激的な研究を発表し続けることができると考えます。

その他、和辻哲郎の『古寺巡礼』を読んで以来、仏像についての和辻独特の繊細な描写に心が惹かれると同時に、仏像や曼荼羅などの仏教芸術にもかなり興味を持ってきました。今年の春、友達とともに増上寺を散策した際に、曇った空の背景において独特な雰囲気を持つ聖観世音菩薩像と桜の花に目をひかれました。そして、5月に同じコースの後輩たちとともに東京国立博物館の法然・極楽浄土特別展を見学に行って、仏教の世界観・宇宙観を表した絵図などを満喫しました。夏休み中にも、東京国立博物館で開催される神護寺創建1200年と空海生誕1250年記念特別展を見学する予定です。神護寺は、平安時代初期に活躍した僧である空海が中国・唐で留学生活を終えて帰国してからの活動の拠点とした寺院です。神護寺の所蔵品となった、空海が中国で留学した際に集めた数多くの宝物が今回の特別展で展示される予定なので、大いに期待しています。

空海が自らの留学経験を最大限に生かして自国の文化発展に力を注いだように、私も留学生として自分自身の研究や異文化交流の経験を通じて、日本・中国の友好交流に貢献できるように引き続き頑張って行きたいと思います!

春の増上寺の桜と聖観世音菩薩像

勉学の余暇に描いたスケッチ