会報『日本と中国』

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友好訪問詳細

友好訪問本物の寿司を中国の人にも味わってほしい

2017年2月1日号
李 衛涛(り えいとう)さん
「本格寿司」創業者
李 衛涛(り えいとう)さん

1974年北京生まれ。26歳で来日、寿司職人として計8年間修行。2010年、北京市朝陽区に「本格寿司」を創業。現在は同市内に支店を合わせ計3店舗を構える。好物は日本酒とたばこ。最近、健康のために電子たばこに切り替えた

 北京で寿司を提供す る店は1000軒を超えるが、日本人が考える寿司屋とは少しニュアンスが違う。そんな中、本場の寿司を提供する店として、現地の職人や日本人駐在員からも一目置かれる存在だ。

寿司職人へのあこがれ

 『おしん』や『鉄腕アトム』を見て育ち、日本に親しみを感じてはいたが、留学を考えるまでには至らなかった。人生の転機をくれたのは、優秀な成績で日本の大学院に進んだ兄。喧嘩に明け暮れる生活だった弟を心配し、「違う世界を見に来い」と来日を勧めた。

 東京で日本語を学ぶ中、寿司職人を紹介するテレビ番組を見て衝撃を受ける。「一生を捧げるに値する職業だと直感しました」。同級生が寿司屋での働き口を紹介してくれた。時給750円、他のアルバイトより安いが、全く気にならなかった。結婚を経て在留資格を家族滞在に切り替え、本格的に寿司を学び始めた。

 寿司屋のマスターは、絵に描いたような職人。8年間一緒に働いたが、褒められたことは一度もない。魚の切り身にほんの一滴水がかかっただけで、まるごと捨てるよう命じるほどの頑固者。それだけに顧客の信頼は厚く、常連客の中には当時の首相も名を連ねた。素直で我慢強い性格が気に入られたのか、そんなマスターから全幅の信頼を置かれ、いつしか店になくてはならない存在になった。

 だが、夢があった。故郷に店を持ち、「本物の寿司を中国の人にも味わってほしい」。一度は慰留され、さらに二年半働いた後、改めて帰国の意思を伝えた。マスターは黙ってうなずき、その日の客に酒を振る舞い、閉店の意を伝えた。

「小さいこと」が大事

 2010年から北京で経営する寿司屋「本格寿司」のメニューには、中国語で“味噌汁にレンゲは付けません”という注意書きがある。中国の習慣に倣いレンゲを付ける店は多いが、「日本でやらないことはここでもやらない。小さいことだけど、大事」。開店当初から日本人の間でうわさとなり、やがて現地の客にも愛される人気店に成長。夕方から深夜まで営業する中、中国の若者たちを寿司職人に育て上げ、2つの支店を任せている。

 日本文化を敬愛する一方、ここ数年、心を痛めることもある。日本で多くの寿司屋に入ってみたが、すばらしいと思える店が減っていると感じた。スピード、新鮮さ、サービス。「真面目にやっていないという印象。がっかりする」

 店のカウンター横には、マスターの写真が飾ってある。「一度でいいから、店に来てくれたら。教えてくれたことを僕が今でもきちんと守っているところを見せたい。でもマスターも年だし、叶わない夢」。写真を見つめる真摯な眼差しはきっと、修行時代から変わっていない。
(吉井忍・フリーランスライター)