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友好訪問詳細

友好訪問「中国の治水神だが、日本の治水神でもある禹王は国境を越えた平和的で共通の存在」

2015年5月1日号
治水神・禹王研究会会長 足柄の歴史再発見クラブ 大脇 良夫(おおわき よしお)さん
治水神・禹王研究会会長 足柄の歴史再発見クラブ
大脇 良夫(おおわき よしお)さん

1941年島根県生まれ。慶応大学経済学部卒業後、富士フイルム(株)入社。2003年に退職し郷土史研究を始める。06年「足柄の歴史再発見クラブ」を立ち上げ、初代会長に。編著に全国の禹王碑をまとめた『治水神 禹王をたずねる旅』(人文書院)がある。(株)心理技術センター客員研究員※5月9・10日に開催される「東アジア文化交渉学会in開成」で基調講演を行う

探究心を胸に、全国の禹王碑を巡る

 禹王(うおう)の魅力にとりつかれ、全国の碑や像を巡って研究している探求家。禹王は中国最古の王朝、夏(か)の皇帝。黄河を治めた治水の神として人びとに崇めれてきた。なぜ、禹王なのか。出会いは一つの「再発見」だった。

 出雲の国、島根県は松江で育った。土地柄のせいか「お茶を飲めば、おばあさんから神話が聞けた」と歴史には早くから親しんだ。大学進学で上京し、就職してから現在の神奈川県足柄上郡開成町に移り住んだ。

酒匂川のほとりで見つけた「文命碑」

 退職後の2006年1月、仲間と郷土史研究グループを作った。地元足柄の歴史を「市民レベル」で学ぼうと「足柄の歴史再発見クラブ」を組織した。まず「当面のテーマ」を話し合った。ヒントになったのが「富士山宝永大噴火」だ。07年に300年を迎えることに気が付いた。開成町を流れる酒匂川(さかわがわ)は富士山に通じており、町の歴史に深く関わる。ピッタリの題材だと思った。

 酒匂川を調査中、川のほとりに「文命」と記された石碑を見つけた。調べてみると、文命は禹王の名前。江戸時代、氾濫する酒匂川の治水工事完成後に建てられたもの。思えば、町内には「文命中学校」があった…。

 「ビビッときました。それを当時の露木順一開成町長に話したら、“倍返し”の反応でした」。研究内容は町長の意向も受け、小学生から大人まで気軽に読める歴史ビジュアル本『富士山と酒匂川』として発行。これを機に、禹王研究にもますます熱が入った。

サミット、研究会など広がる日中文化交流

 「禹王研究の最大の魅力は、分からないことがまだまだたくさんあること。探究心をくすぐられます」

 2010年11月には開成町で「第1回禹王(文命)サミット」を開催。国内外で大きな話題となり、今年9月には第5回サミットが大分県臼杵市で開催される。

 足柄の文命碑に中国から取材が来るようになり、逆に中国の禹王碑を訪ねるなど、禹王を通じた日中文化交流が自然と生まれた。

 「驚いたのは、日本と中国が争っていた78年間の不幸な時代にも、30の禹王碑が日本で建てられていたこと(全体の3分の1)。中国の治水神だが、日本の治水神でもある。国境を越えた平和的な共通の存在。それを両国の人びとに知ってもらうことは大変意義のあることだと思っている」

 禹王でつながったネットワークはじわじわと広がり、13年には全国組織「治水神・禹王研究会」を結成。毎年京都で研究会を開く。

 この4月6日、足柄を学校交流で訪れた中国の中高生たちを文命碑に案内した。「中国の偉人・大禹が異国で大切にされていると知って、皆さん感激してましたよ」
(北澤竜英)