会報『日本と中国』

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友好訪問詳細

友好訪問「文学は若者受けするコミュニケーションツール 中国の文化を分かりやすく伝えたい」

2014年4月1日号
東京大学大学院人文社会系研究科博士課程 東大中文村上春樹研究会会長 徐子怡(じょ しい)さん
東京大学大学院人文社会系研究科博士課程 東大中文村上春樹研究会会長
徐子怡(じょ しい)さん

1985年、北京生まれ。2003年に北京語言大学入学。在学中、日本の北陸大学(04年)と桜美林大学(05年)に留学。07年からの中国のトヨタ自動車株式会社での勤務を経て、09年に東京大学大学院人文社会系研究科に入学、アジア文化研究を専攻。12年4月から同博士課程。最も好きな村上作品は『国境の南、太陽の西』

文学を通じた日中交流を目指す

 東京大学大学院で村上春樹作品について研究している。

 高校生の時、中国で第二次村上春樹ブームの最中だった。若者にとって村上作品を読むことが一種のファッションとなり、友達に勧められると、夢中で読み始めた。当時、周りには漫画やゲームなど日本の文化があふれていて、「日本は身近な存在で、皆の憧れでもありました」

 元々読書や語学が大好きで、高校時代から日本文学・文化に魅了され、日本語を学びたいという強い思いから、北京語言大学日本語学科に入学。「日本人をはじめ、世界各国からの留学生と接することができました」。異文化理解を深める一方で、日本人留学生の友人から「最初は中国人は自分の家でパンダを飼っていると思った」と言われたこともあり、驚いたという。

日本が大好きな“今時の若者”

 初の来日は大学在学中の2004年。1カ月間の留学で、着付けや抹茶などの日本文化を体験した。翌05年には大学間の交換留学生として選ばれ、1年間再来日した。

 同大卒業後は北京の中国トヨタ自動車株式会社に入社。日本人駐在員と共に仕事をしているうちに、日本語のスキル、日本文化への理解を着実に積み上げた。

 現代中国文学研究者・藤井省三東大教授の著書『村上春樹のなかの中国』を読み一念発起して退職し、09年から東大大学院に進学。現在は同院博士課程で、中国における村上春樹の受容課題について取り組んでいる。その情報共有がきっかけで研究室の仲間と一緒に「東大中文村上春樹研究会」を設立し、会長に就任した。

 村上作品は日中両国語で読破済みで、原作について「分かりにくい表現もあります。特にカタカナが難しいです」と、時には辞書を引くこともある。他に好きな日本人作家は松本清張と三島由紀夫だという。

 読書以外の趣味は手芸で、時間に余裕ができるとアンティーク雑貨ショップを巡っている。また、日本のロックバンドGLAY(グレイ)の大ファンで、着こなしはオシャレで洗練されていて、「かわいいものが好き」と、“今時の若者”そのものだ。

交流には相手の国の文化を知ることが大切

 北京市内の書店には日本関係の書籍が多く並ぶ。だが、12年に尖閣問題が起こると、それらの書籍は一時的に売り場から姿を消した。村上作品も例外ではなかった。村上氏は当時、文学作品を「国境を越えて魂が行き来する道筋」と形容し、道筋が断たれた事態を嘆いた。

 「国と国との関係には利害があり、どうしても摩擦が起こります。愛国心はあるけれど、中国の若者は本当は日本の文化も大好き。心の中で葛藤があると思います」

 「交流には相手の国の文化を知ることが大切」と話し、文学を通じた日中交流に意欲的だ。将来は比較文学・文化の研究者や大学教授を目指している。

 「日本ではまだ、文学をはじめとする現代中国のポップカルチャーが十分に浸透しているとは言えません。中国の文化を日本の学生に分かりやすく伝えたい」

 「テレビドラマや音楽は、相手の国や文化をイメージしやすく、国を問わず若者に受け入れられるコミュニケーションツール。文学だってもちろん同じです」

 文学と言うとどうしても控え目なイメージがつきまとい、交流は地味になりそうだ。しかし、生き生きと語る今時の彼女は、文学交流をきっとオシャレに仕立て上げてくれるだろう。
(田島恵輔)